第42話 使いやすさを超えて
杖については明日の冒険者大会次第だが俺としては杖以外にも装備を揃えておきたいところ。
と、言うわけで……
「着きました!この町一番の品揃えとされる防具屋さんです!」
俺達は防具屋へとやって来た。
入ってみると店内は意外にも落ち着いていて店の奥からはカンカンと一定のペースで鉄を叩く音が聞こえてくる。
「おお…なんか冒険者って感じするな」
「雰囲気が出てるね」
こういう所に来るのは初めてなのかハクヤも興奮しているみたいだ。
「広いですね…!剣に槍にデスマグナムサイクロン!選り取り見取りじゃないですか!」
「おい、俺は今一つ変なのが混じってたのを聞き逃さなかったからな?」
「まあまあ、今はいいじゃないですか。それよりワタルさんは何が欲しいんですか?」
俺の疑問を抑え込むように顔を覗き込むエルス。ずっと意識はしていなかったがエルスが屈むとその……ね?
おっと、いけない。俺は紳士……ではないのかもしれないが変態では無い。
「ああ、実はそろそろ冒険者用の装備を買おうと思ってな。今の服だとモンスターと戦ってるときに危ないだろ?少しでも防御力のある鎧か何かを……」
出来るだけ冷静を装って説明する。
「確かにワタルさんってドラゴンブレス受けたら消し飛びそうですよね!」
おっと、自分は消し飛ばないみたいな言い方しやがったな?試してやろうか?
「イブもドラゴンブレス出せるの!」
どうして出す側なっちゃうんだよ。
「君達、店の中では静かにするべきじゃないのかい?」
その意見はごもっともだが、お前だけに言われたくねえな。
……非常にまずい。このままだとまともに選ぶ事が出来ない。
最近では少し慣れてきたが未だにこいつらの行動は未知数。
変な問題が起きないうちに――
「兄ちゃん冒険者か?」
「フヒィッ!?」
三人に気付かれないようにそうっとその場から離れようとした時だ。ガタイの良い男が俺の肩に触れてきた。
「おっとすまん。驚かせるつもりは無かったんだ。ただ兄ちゃんはちと冒険者には見えなくてな……」
少し下がり両手を上げる筋肉男。
「い、一応最近冒険者になった新米です…」
「ははっ!そうか!だから装備を揃えに来たという顔をしているな!」
「ま、まあそうですけど」
随分とフレンドリーな男だ。冒険者にはこんな調子の奴が多いのだろうか?
「ほほう…。ならここは一つ、先輩冒険者である俺に任せてみないか?」
「え?」
「兄ちゃんにあった装備を見繕ってやるさ」
「はあ…あ、ありがとうございます」
多少暑苦しいタイプは苦手だがあの三人よりはマシだろう。それに俺みたいな新米冒険者が一人で探しても時間の無駄だしな。
「よし、ならばまずは――」
「待たせたねワタル。ホストのスカウトにあっているようだが僕が助けに来た」
ほほう、もし本当にそう見えたのなら君は先に病院へ行きたまえ。
声のする方を向いてみれば誇らしげに手を伸ばすハクヤ。その後ろでは不思議そうにイブとエルスが顔を覗かせている。
そして俺と筋肉男を見比べたあと、
「……いや、確かに悪くは無いですがワタルさん程度の顔でスカウトが来ますかね?私は筋肉戦隊ムッチョマンのスカウトだと予想します」
誰だよ筋肉戦隊ムッチョマン。
「お前らな……!俺は装備を見繕ってもらおうとしてるだけ。わけの分からん戦隊のスカウトになんかあって――」
「しっ!」
「むぐぅッ!?」
エルスの細い人差し指が俺の唇へ当たる。
そして、そわそわする俺をじっと見ながら慈愛に満ちた瞳で言った。
「いいんですよ……。強がらなくて!」
「ああああああああぁぁぁッ!!!!」
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「まさか本当に冒険者の方だったとは……」
「びっくりなの!」
「僕には最初からお見通しだったけどね」
「お前ら……」
「はぁっはっはっはっはっ!面白い仲間じゃないか兄ちゃん!」
筋肉男が口を大きく開いて笑う。この場合残念ながら他人から見て面白いは仲間から見たら相当厄介である。
「あの、そろそろ装備のほうを……」
「おっと悪い、それで話の続きだが兄ちゃんは前衛、後衛どっちだ?」
「俺は……」
えっと、まずハクヤは魔法使いだから後衛で……イブが前衛、エルスはもちろん後衛なわけで俺は……
「……どっちだ?」
「魔法を使うので後衛では?」
「けどそしたら前衛がイブだけになるだろ?なら今のうちに俺も前衛の練習をしておいた方がいいんじゃないか?」
「つまり荷物持ちだね」
しばき倒すぞ。
「なら兄ちゃん、オールラウンダーならどうだ?前衛も後衛も出来るぞ」
「ああ…確かにそれなら……!」
「おにーちゃんに手伝ってもらうの!」
幸いにもイブは強い。だがそれでも苦戦した場合には俺が前衛へ入る。これならば安定するのではないだろうか?
……この場合、俺が戦力になるかは考慮しないものとする。
「なら決定だな。よし、オールラウンダーなら……軽めの盾が必要だな。待ってな」
そう言って筋肉男はその場を去った。
「私達も探してきますね!」
「……変なの持ってくるなよ?」
「「「……………。」」」
頼むから返事をしてくれ。
数分後、俺は再び集まったエルス達から盾の説明を受ける事となった。各自、自分の選んだ盾を隠しながら持ちそわそわしている。
「まずはこちら!私が選んだものです!」
そんなエルスが手に持つのは苦しそうな男がうめき声を上げているかのようなデザインをされた盾。
「愚者の盾って呼ばれているそうですよ」
「へえ……デザインは凝ってるんだな」
「ふふふ!たまに夜、苦しそうな声が盾から聞こえるそうですが許容範囲ですよね?」
今の発言で範囲を貫いたわ。
「イブはこれなの!」
撃沈するエルスの屍を超え、イブが渦潮の様な形をした盾を持ってくる。
「ハイドロシールドって盾なの!モンスターの攻撃を水が吸収してくれるの!」
「そりゃ無難にいいな!それに決め――」
「欠点は使っている間は水の中だから息が出来ないことぐらいなの!」
早く元の場所へ戻してきなさい。
「ふっ、皆カスみたいな盾しか選ばないね。しかしその点この盾ならデザイン、能力、そして使いやすさ共に素晴らしい」
今までの二人とは決定的に違うぞと上から目線で盾を差し出して来るハクヤ。
渡された盾は黒く、デザインはライオン?
「能力は?」
「自動反撃さ。攻撃を受け止めると自動的に反撃出来る」
便利だな。俺に技術が無いからこそ、この盾があれば少しでも戦力を補えるかも……!
「確かに使いやすいな……でもその分しっかり攻撃を受け止めなきゃならねえよな?」
「大丈夫さ。この盾は呪いの盾と言って装備した瞬間に意識を盾に奪われるからワタルが受け止めなくても勝手にやってくれるさ」
使いやすさを超えて体を乗っ取られてるじゃねえか。てか呪いの盾を店に置くなよ。
「まともなのは無いのかよ……」
「その為に先輩冒険者である俺が選んで来てやったぞ!ほら」
先程まで少し空気感があった筋肉男がごく普通の青い盾を渡してくる。大きさとしては大体俺の顔よりふた周り程大きいか?
いや、さっきまで見た目、能力に騙されてきたからな。簡単に信用はしない。
「名前は?」
「魔力盾だ」
「能力は?」
「込めた魔力に応じて盾の強度が変わる」
「何かデメリットは?」
「しいて言えば魔力が少ない奴には使えないぐらいだな」
なるほど……その点、俺の魔力は普通の冒険者より多い。ぴったりだな。
「………愛してます」
「へっ、後輩冒険者に慕われるのもなかなか悪くねえな!兄ちゃん頑張れよ!」
そう言って俺の背中を叩くと筋肉男は直ぐに店を出て行った。俺もいつかあんな冒険者になってたりするのだろうか?
……いや、いつかは旅人に戻るさ。
「元気無さそうな顔してるの……」
「あ、いや…疲れてただけだよ。よし!早く買って帰ろうぜ?」
……そう言えばあの筋肉男、最後までは名前を言わなかったな。もし次会ったら聞いてみるか。
かくして俺は魔力盾を手に入れた。
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