第41話 冒険者大会
「……ご依頼達成ですね。こちら4人分の報酬で8000ギルになります」
「ありがとうございます」
「あの……。いえ、何でもないです」
受付のお姉さんは一度は何か聞こうとしたものの何かを察したのか口に出す寸前で思いとどまる。
「別に気になる事があるなら聞いてくれてもいいんですよ?」
その俺の言葉に受付のお姉さんはパッと目を光らせ……
「そ、そうですか?では……その…何故そんな変わり果てた姿に?」
「まあ、その……とある双子フライパン使いに襲われたと言いますか……」
「襲われた!?どうします?犯人確保の依頼承りましょうか?」
クソッ!言葉の選択ミスったッ!
だ、だがもしこれで俺があの双子姉弟にボコられたとでも噂が広まったら恥ずかしいからな……。
多少の嘘は許されるだろう。
「大丈夫ですよ。俺、意外と強いんで。油断しなければ――」
「「グフッ!」」
台無しだよ。
結局受付で醜い睨み合いを繰り広げ、受付のお姉さんにどやされながらギルドカードに実績を記録しギルドを後にした。
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「ここまで薬草採取、子守と来てあと一つ依頼達成で冒険者ランクDか……長いな」
「つまりSまであと少しと言う事だね」
つまりの意味を調べて出直してこい。
「あれ?ワタルさんどちらへ向かってるんですか?」
宿と反対方向へ向かっている俺を不思議に思ったのかエルスが首を傾げる。
「ああ、さっきガイドブックを読んでいたんだがやっぱりこの町、防具や武器を取り扱う店が多いみたいでな。俺だけ装備がしょぼいのもなんだし見てみようかと思って」
「確かにワタルさん折り畳み式のナイフぐらいしか持ってませんでしたよね。良さそうな装備ですか……それなら!」
エルスがカバンの中からゴソゴソと一枚のポスターを取り出した。
えっと……『己の力を示せ』?ってこれはもしかして。
「……冒険者大会?」
「はい!この町では月に一度冒険者のみ参加可能な大会があるみたいなんです!」
なるほど。ここでは武器も装備も好きなように揃えられる。腕試しにって冒険者が多いのかもしれないな。
「でも、これと俺の装備に何の関係が?」
「ふっふっふー!驚きすぎてショック死しないで下さいよ?」
そんな死に方してたまるか。
「実はですね、この大会の優勝賞品が杖なんです!」
「杖?」
「あ!もちろん普通の杖じゃないですよ?はるか昔、鍛冶の才能に恵まれた勇者様が作ったとされる『多分ギジンカして美少女になる杖』ってやつです!」
……やっぱり遠慮しとこうかな。
「ギジンカ?って言うのはよく分からないですが恐らく勇者様の世界の技術だろうって職人さんは言ってます」
「その後の『美少女になる杖』ってところで嫌な予感しかしないんだがッ!?」
「だ、大丈夫ですよ!あくまでも名前ですから!それにワタルさんが魔法を使う以上杖は持っておいたほうがいいかと……」
杖は使用者の魔力を制御し威力を高めることが出来る。ちなみに使用者の魔力を制御し剣に込めるものがパワーアップルを素材として使う魔力剣である。
「……別にSランク冒険者目指してるわけでも無いし一般的な杖でいいんだけど」
「それは駄目だね。ワタルも勇者のパーティに所属している以上舐められない様な装備を身に纏うべきさ」
「……本心言ってみろ」
「美少女になる杖なんてイベント見逃せるわけないじゃないか!」
残念、聞かなきゃよかったよ。
まあ、でも確かにこいつらなら大会を勝ち進める可能性はあるし……
「しゃあねえな。えっと…開催日は明日、使用可能な武器は杖全般、剣全般、盾全般、弓全般か」
「私は戦闘向きなスキルや魔法を持っていない、か弱い乙女なので出ませんけどね」
まあ、それは仕方ないか。エルスにはゾンビ以外の相手へ攻撃する手段が無い。
明日は大人しくしていてもらおう。
「よし、なら明日参加するのは俺とハクヤ、そしてイブだな。一応言っておくが俺達の目的は隣の国へ行くこと。大会が終わったらすぐにこの町出るからな?余計なことして長引かせるなよ?」
念の為釘を打っておく。
もちろんこの約束を守ってくれるとは思ってもいないが……。
そんな時、イブと目があった。
「ん?どうしたイブ?」
そう言えばさっき……いや、双子姉弟の家ぐらいから一度も喋っていない様な……。
「ぷいなの!」
可愛らしく俺の顔が見える方向から顔をぷいっと背けるイブ。また、その小さな手ではエルスのシスター服の端を掴んでいる。
「お、おい、どうしたんだ?」
いつも無邪気に抱きついてくるイブだが来ないなら来ないでどこか寂しい。
「まったく……イブちゃんの相手をしないであの双子姉弟と遊んでたからですよ?」
ぐぅ……事実なだけに反論出来ない。
「おにーちゃんはイブよりあの双子姉弟の方が好きなの!」
「メンヘラロリ、面白い属性だね」
誰かこいつを捕まえてくれ。
「ち、違うぞ?あくまでも依頼だったから仕方無くだな……。もちろんイブの方が好きだぞ?」
「本当?」
「ああ、当たり前だろ?」
きっぱりと言い切る。すると、何処かモジモジしながらもイブは嬉しそうに笑った。
「そ、それなら仕方無いの……!」
いや、ちょっろ。
どうやら子供ならではの可愛らしい嫉妬心だったみたいだな。
まあ、それだけ懐かれているって事は悪い気もしないが。
「なんかワタルさんっていつか刺されそうな性格してますよね……」
しがみついてきたイブを撫でているとエルスがそんなことを言う。
流石にこんな事、子供であるイブぐらいにしか言えないけどな?
「ふっ…よく分からないが君たちが僕を応援している事は伝わったよ。ありがとう」
こっちこそお前が今までで何を聞いていたのかよく分からないが取り敢えず一回戦目で盛大に負けちまえ。
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