第32話 デメリットがあるからこそ

「こんなでかいクレーター……一体何があったら……」


 目の前に広がる大きなクレーターは直径約二百メートルほどあり、その中心には禍々しいオーラを悶々と放つ鉄の建物が堂々と建っている。

 中心からえぐれているのを見る限り中心に何か大きい物体が衝突したのは間違い無さそうだが……

 

「ふむ……。なかなか広いね。僕の人としての器を表しているのかな?」


 は?


「そんな事ある訳無いじゃないですか?」


「良くてお茶碗だろ」


「お茶碗以下なの」


 イブの追撃までがコンボとして繋がりハクヤの精神へダメージを与える。


「だ、大丈夫ですよ……?それでも勇者様にも良いとこはあると思います」


「クラリスは優しいな……。一体どんなとこが良いと思ったんだ?」


「ふぇっ!?そ、その……あの……い、いつでも……ごめんなさい」


 おい…。

 

 クラリスの擁護も深い傷跡を残して虚しく消える。この世界に彼の味方は存在しないのだろうか?


 虚無に満ちた顔で空を見上げるハクヤだがふと何かに気が付いたようですぐにいつもの余裕のある態度へ戻る。


「ふむ……さっきのコボルトがあの建物に入っていったようだね」

 

 ハクヤが何を考えているのかは分からないが不可解に楽しそうなので注意はしておく事にする。


「……まあ、あそこが魔王軍のアジトで間違い無さそうだな」


「そうですね。さて、本番はこれからですがどのようにしましょう?」


 正面から突っ込んでもあっと言う間に返り討ちにされるのは目に見えている。だとすれば―――まず裏から侵入して……ハクヤ、もしくはイブが一撃ドカンと与えるのが良いだろうか?

 いや、一撃与えたところで倒れるとは限らないし……。それに裏から侵入だってそもそも裏なんてあるのか?

 

「……参ったな。アジトが分かったのは良いが作戦が思い付かねえ」

 

 そもそも俺は冒険者が本職じゃない。あくまでも本職は旅人である。次から次へと作戦なんて思い付くわけがないのだ。

 そんな時、頭を抱え座り込む俺の肩に小さく柔らかい手が触れた。


「イブ……」


「おにーちゃんは一人じゃないの!」


「そうですね!私達ほどの冒険者が一緒にいるんですよ!」

 

「勇者の力とくと見るがいいよ!」 


「わ、私だって守護精霊の力見せます!」


 そこには頼れ……なくは無い仲間達。


 そう…、俺は一人じゃない。俺にはこんなにも頼もしい仲間がいる。

 一人で無理だったのなら二人。二人で無理だったのなら三人。そうやって乗り越えていけばいいじゃねえか。


「お前ら……ありがとな。なら早速で悪いがお前らの作戦も聞いていいか?」


「任せてください!」


 ちょっとした期待も込めつつ俺は一人ずつの作戦を聞いていく。


「イブがあそこを全部消すの!」


 ふむ。


「僕が一撃であの一帯を消し飛ばすさ」


 へぇ。


「私が回復し続けるので皆さんが急所だけを守りながら戦うって良くないですか?」


 なるほどね。


 ………。


「期待してごめんな?」


「ちょっと待って下さいよ!罵られるんじゃなくて謝られたら私達が可哀想な人みたいになるじゃないですか!」


「うるせえぞッ!大体急所だけを守りながら戦うってなんだよ!俺らに攻撃受け続けろってか!?イブとハクヤならまだしも俺は急所じゃなくても死ぬぞッ!!」


 話を聞く限り相手は魔王軍の中でも地位が高そうなのだ。その辺のモンスターとは違い冒険者なりたての俺がそんな奴の攻撃に一発も耐えられるはずがない。

 ……いや、別に冒険者歴が長いから耐えられるってもんでもないが。


「僕だったら無限に耐えられるね」


「イブは避けるの!」


 ほーら。人外様達の面構えは違うな。


 だがこれで状況は元通り。俺は再び頭を悩まされることに――


「で、でしたらこんなのはどうでしょう…」


 そうした俺の悩みを吹き飛ばしたのはクラリスだった。


 


✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦



「いいんだね?」


「……ああ、思いっきりやってくれ」


 俺達のスキルにデメリットがあるからこそ出来た最大の作戦―――


「エンドレスレイン!」


 たちまち空には雨雲が出現し、大雨が訪れる。そして同時に……。

  

「キギャアァァァァァァァッ!!!」


 額に紅く輝く宝石を持ち、宝石でできた硬度の高いトゲを備える巨体。

  

「あ、あれがそうです!クリスタルワイバーンです……!」


 そう、ボスを呼ぶ事である。

 

 ボスモンスターには敵、味方と言う判別は無い。ひとたび動く生物に会えば相手が動かなくなるまで無尽蔵に暴虐の限りを尽くす。

 たがハクヤのエンドレスレインにはボスモンスターを呼ぶ効果はあっても狙いを俺達に定める効果は付いてない!

 と、言うことは……


「イブ!何かあの建物に一撃ぶっ飛ばせ!」


「任されたの!」


 イブはオルタンシア・ネオを頭の上に掲げると一気に振り下ろした。


「ノヴァ・バスターっなの!」


 その衝撃波は空気を切り裂き、音速を超えるスピードでクレーターの中心にある建物へ衝突する。

 轟音と共に木っ端微塵となる建物。


「正直、これで倒れてくれても……」


 だがそんなに上手く行くはずも無い。

 

「おやおや…お客様かい?いきなり爆撃とは物騒だねえ……」


 中から出て来たのはフードを被った骨のモンスター。クラリスの話に出て来たのはあのモンスターで間違いは無いだろう。


「そこにいるのは分かっているよ?隠れていないで出て来なよ?」

  

 参ったな……。バレてんのかよ。


「……まあ、でも問題は無いっ!」


「ん?」

 

「キギャアァァァァァァッ!!!」


 エンドレスレインの効果でここへ引き寄せられたクリスタルワイバーンはまずどうするか?

 そんなの決まってる。


「爆発のあった建物に目掛けて飛んでくるよなあッ!!?」

 

「……こ、これまた不思議な事をするお客様だねえ……!嫌いなタイプだよッ!!」


 突然のクリスタルワイバーンに動揺を抑え切れない骨のモンスター。あの愚痴日記によるとフェレビア?だったろうか?


 そんなフェレビアを前に俺達は堂々と姿を表す。そして高らかに言った。

 

「俺達と戦いたきゃそいつを倒してみやがれこの骨野郎ッ!!!出来るもんならな!!」


「小癪なヒューマン共めえええええッ!!」


 いざ、魔王軍討伐開始である。

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