冒険者の町、エルンブルグ

第8話 やったぜ!次の町!

「くっそおおおおおおお!!!!死んでたまるかよおおお!!!」


「バフかけますかッ!?効果が切れたら動けなくなりますけどかけましょうかッ!?」


「うっわ、絶対にかけんじゃねえぞ!?かけたらお前も死ぬんだからな!?」


「なのなの!」


 なんてことだろう。自称勇者を掴み空を飛ぶ鳥を追いかける冒険者が3名。驚くべき事に一人は幼女を肩車、もう一人は僧侶であるのにも関わらず大股でダッシュ。

 きっとこの光景を見た人は一生記憶に残り続けるだろう。


 ……俺達のことです。


「おいッ!離されて来てるぞ!」


「だ、大丈夫です!見てください!ハクヤさんが魔法を使おうとしてます!」


「おいおい…空中だぞ!着地は!?」


「……ハクヤさんがそんな事を考えてる訳ないに決まってるじゃないですか?」


 エルスが猛ダッシュの中、真顔でこちらを見てくる。


「……それもそうだな」


「多分勇者は落下死しないとか思ってるの」


 皆、考える事は同じらしい。しかし困ったな…。ハクヤがもし、空中であのデカ鳥を落としちまったら一緒にハクヤまで落ちてくる事になる。


「……まてよ?ハクヤはオールマジシャンなんだから風魔法で降りてくりゃいいよな?」


「それはそうですけど…しかしハクヤさんにそんな事思い付くこと出来ますかね?」


「そうだよな……。せめて、この事を伝えられればいいんだが」


 伝えようにも距離が離れていて声が聞こえるはずもない。出来るとしてもジェスチャーが精一杯だ。


「……やるしかねえか」


「なにするの?」


 イブが頭の王冠をコンコンと突きながら聞いてくる。正直、呪いの王冠なんだからあまり触らない方が良い気がするのだが……。


「ああ、協力してくれ!今からジェスチャーで風魔法の存在を気付かせる!」


「わ、分かりました!風魔法ですね!頑張ります!」


「イブもやるの!」


 ジェスチャー同盟を結託した俺達は個々でハクヤに向かって走りながらもジェスチャーで風魔法の存在を伝えようとする。


「お、ハクヤが何かに気付いたようだぞ!」


 ハクヤがこちらを向いて任せろと言わんばかりに決めポーズをしてくる。

 いや、お前は捕まってるんだからそんな事してる場合じゃねえよ。


「手のひらにつむじ風を起こしてます!どうにか伝わったみたいですね!」


「そうだな!」


 これでようやく安心できる……。


「あ、……風魔法で鳥の首を落としました」


「は?」


「…続いて泣き叫びながら落ちて来てます」


「ばかあああああああああ!!!!!!」


 風魔法で鳥を殺れって意味じゃねえよッ!


「バフ!さっきのバフを!あと筋力増加!」


「いいんですかッ!?」


 この際仕方がない。


「見捨てるわけにもいかねえだろ!」


 理解してくれたようでエルスが俺の方に手を当て、バフをかける。


「ハイリスクアップ!」


 ちくしょう……。


「嫌な名前だなあああああああ!!!!」


 俺は叫びながらもハクヤの下辺りまで全力で駆け出す。そして、ハクヤが僅か10メートルほど上に見えたところでやっと気付いた。



「どこ落ちて来るか分かんねえじゃん」




「うわあああああああああああ!!!」


 大粒の涙と共にハクヤが落ちて来るがどの辺に落ちて来るがよく分からない。魔物との距離を把握するような冒険者と違って俺は貧弱な旅人である。

 そりゃあんな高くから落ちて来られたら何処で待っていればいいかなんて分かる訳ねえよな。


「クソッ!どうにでもなれッ!」


 次の瞬間俺の目の前は真っ暗になった。




✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦


 チュンッチュンッ!と一匹の緑色の小鳥が俺の腹で鳴いている。続けて、もう一匹がやって来てクルクルと周り、元いた小鳥にブレイクダンスでアピールをし始めた。

 ……そういえば小さい頃、父さんが言ってた気がする。小鳥はブレイクダンスでプロポーズするって……。


 ……いや、なんで俺の腹でするんだよ。


「クソッ…寝てたか…」


 重い顔を上げる。2匹の鳥は窓から何処かへ飛んで行ってしまったが俺は気にしない。

 しかしまあ、どうやら俺はついさっきまで寝ていたようだ。


「ここは……」


「起きたの!」


 辺りの把握が出来たところでイブがトコトコと部屋に入って来た。集合してからずっと裸足なのが気になるが可愛らしいので別にいいだろう。


「イブか。すまん、ここは一体……」


「ハクヤがおにーさんにぶつかって気絶させちゃったから運んで来たの!」


 はぁ……やっぱり慣れないことをするもんじゃねえよな。


「ちなみに此処は?」


「目的地だったエルンブルグなの!」


 喜々としてイブが伝えてくれる。これに関しては本当に良かった。もし、エリーズに戻って来てたら俺、泣いてたよ。


「ハクヤは無事か?」

 

「……今は無事なの」


「今はって……それまではッ!?」


 気不味そうにするイブだが、飴を与えたら意外とあっさり話してくれた。

 イブの説明は子供らしいっちゃ子供らしいのだが擬音多めで分かりにくかったが簡単に説明するとこうだ。


①ハクヤ落ちる。

   ↓

②俺にぶつかる。

   ↓

③呪いの王冠がハクヤに突き刺さる。

   ↓

④俺は手足が変な方向にまがっていたと。


 ……うん。あんな高さから落ちてきたんだからそりゃそうなるよな。


「まあ、無事だったんだしいいか。イブ、ふたりのとこに連れて行ってくれ」


「お任せなの!……あ!起きたならこれあげるの!」


 イブが思い出したかのようにポケットから金色のりんごを取り出した。


「パワーアップルか。珍しいな、どうしたんだこれ?」


 パワーアップルは見た目はりんごに魔力がこもり、金色になったものだ。魔力がこもったせいか、毒性が生まれたので食べる事は出来なくなったが最近では魔力剣の素材などに使われる貴重な果実となっている。

 そう簡単に手に入るものじゃないが……。


「昔、パパに沢山貰ったの。いっぱい迷惑かけちゃったからあげるの!」


「あ、ああ…ありがとうな」


 パワーアップルを娘に沢山渡す父親とは一体どんな親なのだろうか?

 

 新たな疑問が生まれるがこの時の俺は特に気にせず、ふたりのもとへ案内してくれるイブについていくのだった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る