第7話 ドロップアイテム
「ばかやろおおおおおおッ!!!!!」
「ばかやろうとは穏やかじゃないね。少し落ち着いてみたらどうだい?」
この状態で穏やかなやつがいたらそれは確実にお前と同類だ。
「穏やかも何もかもあるかッ!?外れたらどうするつもりだったんだよ!てかそろそろ雨を止めろ!」
「外れる?そんな事あるはずが無いね。僕は勇者だ。逆境を乗り越えるのは当然さ」
ハクヤはさぞ当然かの様に笑みを浮かべてくる。
こいつはドラゴンの巣にぶち込んでも同じ事を言えるのだろうか?
ホントこいつには常識が通用しない。まるで他の世界の住人みたいな……いや、流石にそんな事は無いが。
「あの…お話しのとこ悪いんですけど…ドロップアイテム拾わないんですか?」
雨をハクヤが止めたところで、エルスの忠告によってドロップアイテムの存在に気が付く。105匹オオカミ君の亡骸の上に黒い箱が出現しているようだ。
「あ、ああ…今拾う。ボスモンスターからたまにしかドロップしないんだってか?」
「はい!貴重なものが入っている筈です!」
貴重なものね…。今ままでボスモンスターなんて縁が無かったものだから少し楽しみでもある。
「早く開けるの!」
イブがウッキウキで箱に近付いていく。それに続き俺達もイブを追う。
「よし……。開けるぞ」
箱の前まで来た俺は恐る恐る近付き、箱の縁に手を掛けた。そしてそれを覗き込むように3人が見守る。
「いくぞ……!せーのッ!」
俺の掛け声と共に黒い箱が開く。と同時に中から勢いよく出てきた大量の煙が俺達を襲った。
「ケホッケホッ!おい大丈夫か?お前ら」
「大丈夫かと聞かれれば大丈夫では無いが勇者である僕の身は大丈夫だよ」
よく分かんねえが大丈夫そうで助かる。
「ん!大丈夫なの」
「そ、それより何か入ってます!」
エルスに言われ、箱の中を観てみると何か黒い王冠の様な物が入っている。
……黒いオーラを放っているあたり、明らかに良いもんじゃねえよな。
「お前ら落ち着け。ひとまずは危険物かもしれねえから箱の中に入れたまま運ぼうぜ」
「なのなの!」
小さな賛同者の声を聞きながら俺は後ろを向き町の方を眺める。やはりあと一時間ほどは運ばなければならない。
「ふむ、そうだね。危なそうだがこの王冠は僕達を仕切った君にこそ相応しい。カチャ」
ん?カチャ?
焦る気持ちを抑え、頭のてっぺんをゆっくりと触ってみる。ちょいちょいと触った感触は触り慣れた自分の髪の毛、そしてひんやりと冷たい王冠。
「……まじかよ」
しかも王冠は謎の力で外れないようで、いくら持ち上げようとしても動かない。
そんな焦る俺がどうにかして外そうと奮闘する中ハクヤは誇らしげな顔で拍手をしてきた。
「似合ってるじゃないか依頼主」
「どの口が言ってんだッ!しかもお前のさっき『ふむ、そうだね』って言ったか!?あのとき一体お前は何を聞いてたんだよッ!」
「お、落ちついて下さい!説明書がありますから!」
説明書?そんなもんがあるのか……。
「今、読みますね!」
ま、もしかしたら能力アップのアイテムかもしんねえしな。希望は捨てずに……
「えっと……1090000歳のピッチピチ女神が教える!呪いの王冠講座ー!この――」
「よし、止めてくれ」
「……はい」
ふむ、突っ込みたいところはいくつかあるがまずはこれだな……。
「呪いの王冠じゃねえか」
「なの」「そうですね」「だね」
いや、だねじゃねえよ。
「どうすんだッ!?呪いの王冠だぞ!」
「諦めるのはまだ早いです!どんな効果かは分からないじゃないですか!」
エルスから遠回しに安心してと言われるが残念ながら俺は既に諦めている。呪いの王冠だもんな。あれだろ?つけてたら寿命吸われるとかだろ。短かったなあ……俺の人生。
「今続き読みます!」
「……一応な。で、その自称女神からの説明文には何が書いてあるんだ?」
エルスが慌てて続きの文章を読み始める。
「この王冠を外そうと思ったけど全然外れないよおおお!!(泣)助けて女神さま!ってなってませんか?女神には全て分かるんですよ?」
神はいつも俺達を見守っているわけではないらしい。神は信じるもんじゃねえな。
「この王冠の本来の名前は『パーティー固定の王冠』被るとその瞬間……なんと半径3メートル以内にいた人があなたのパーティーメンバーになっちゃいます!」
内容としては半径3メートル以内にいた人でパーティーを固定。それはもしかしなくてもこのメンバーでだろうか?非常にたちが悪いが。
「それで……続きは?」
「最後に言っておくけど、もしパーティーメンバーと1キロ以上離れたら皆死んじゃいますからね!お気を付けて!……だそうです」
「「「「……。」」」」
その瞬間その場に静寂が訪れた。俺は頭を抱え、イブは俺の足にしがみつき欠伸、エルスは空を見上げてハクヤは不敵な笑みを漏らす。
きっと今は全員……いや俺と……多分エルスが思っているだろう。
『このパーティー、詰んだかもしれない』
しかし、その中でも初めに口を開いたのは少し意外にもハクヤだった。
「まあこうなってしまった限り仕方ないね。隣の国には呪いのアイテムを解呪してくれる職人がいると聞く。それまではこのパーティーで冒険をするのもまた一興と言えないかい?」
言えない。
「お前この王冠のヤバさを本当に理解してるのか?1キロ離れたら死ぬんだぞ?もし町ではぐれたり誘拐されたらポックリ逝くぞ?」
そう、一番心配なのはこれだ。もし迷子にでもなれば簡単に死ぬ可能性がある。
……流石にこいつらも気を付けるよな?
「ふっ、そのぐらい大丈夫さ。気を付けていればはぐれることなど無いからね。もしはぐれても僕の探知魔法――」
そうハクヤが言い切る寸前の出来事だった。
「パレレレレレレレレレッ!!!!」
唐突に空から小さい民家程ある大きな鳥が突っ込んできて『たんまたんま』と情けなく叫ぶハクヤを足で掴み、町の方へ飛んで行く。
「え…?いや、は……?」
………。
「次から次へとぉぉぉぉぉぉッ!!!」
『1キロ先まで逃げられたら死ぬ』死と隣り合わせな鳥との追いかけっこが始まった。
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