第5話 デメリット襲来

 グルゥ…グルルゥ…オオカミ達はすでにこちらにロックオン済み。もはや逃げるなんて選択肢はない。


「……やれるんだな?」


「もちろんさ」


「最初にイブが切り込むの!」


 イブが無い胸を張り、杖を構える。


 話によると初めはイブがドカンと一発ぶち込むらしい。クソ猫の話によれば腕はSランク冒険者レベルらしいがどのようなレベルなのか楽しみでもあるな。


「よしイブ!ドカンとブチかましてやれ!」


「はい!なの」


 元気な掛け声と共にイブが持つ杖に光が集まり、青白く輝き出す。そして……


「ムーンスラッシュッ!」


 


「……ん?」


 駆け出したイブは青白く光った杖で瞬く間にオオカミを順に切り裂いていく。その斬撃は全てが心臓を真っ二つ。

 いや、だが今はそんなことどうでもいい。

 

 そんな事より……


「お前剣士かよおおおぉぉぉッ!!!?」


「ぶい!なの」


 ピースをしてこちらに対して満足げに笑顔を向けてくる。可愛い。


「ありえねぇ……」


 杖を持ってるの見て誰が剣士だと予想出来るだろうか。何処の誰がどう見たって幼女魔法使いだろ。


「……一応聞いておくがなんで杖で戦ってるんだ?」


「剣は重くて持てないの」


 あら可愛い。


 ……じゃねえよ。


 切れ味は…と口に出しそうになるがどうやらイブを見る限り杖でも切れ味は変わらない様子。……なら許容範囲か。


「ん、でも全然切れ味は無いの」


 そうですよね。


 俺の仮説が崩れ去る中、驚きの技術が真相として明らかになる。通りで火力だけでいったらSランクと言われる訳だ。

 まさかここまでとは思いもしなかった。

 ……良くも悪くも。


「君達、まだ終わって無いだろう?」

 

 すると胸を撫で下ろしている俺にハクヤが突然笑みを浮かべそんな事を……


「終ってない?この通りイブが全部――」

 

 ……いや違うな。死んだなら光の粒子として消えるはず。まだ息の根はあると言うことだろう。


「残りは俺も手伝うよ」


 こんな俺でも動けないモンスターにとどめを刺す事ぐらいは出来る。俺はポケットから折りたたみ式のナイフを取り出すとオオカミへ向かってゆっくりと歩き出す。


「ほう、戦えないと思っていたが君も戦えるみたいだね。お手並み拝見といこうか」


 おいやめろ、何変なこと言って……


 俺がオオカミの身体に近づいた時だった。


 ヌチャァ――ヌチャ―グジュッ。不快な音を立て、オオカミの死体が蘇っていく。

 傷はそのまま、意識がある気配も無い。


「おいおい、これって……」


「もしかして聞いていなかったのかい?これまた傑作だね」


 お前はこの後絶対に殴る。


「……何をだよ」


「彼女のスキル、ムーンスラッシュは月の光を剣……いや、杖に宿して攻撃するんだよ。故に昼間は威力が低い」


「まあ、そうだろうな」


 名前から察するに月の光が弱い昼間は威力が下がるのも無理はない。恐らく夜にこそ真の力を発揮するのだろう。イブは昼間なのに斬ってたが…。


「そこからが問題なのさ。ムーンスラッシュは昼間に使い、そのまま魔物を倒すと倒した魔物をアンデット化させる」


「……は?」

 

 倒した魔物をアンデット化させる?


「何だそのゴミ仕様!冗談じゃねえッ!なんでそれを先に言わないんだよ!」


「……てへぺろ!なの」


 どこで覚えやがったそのポーズ……。イブは全身全霊で可愛いポーズをとったあと無言で目を逸らす。


「あッ!?このネクロマンサー幼女がッ!可愛ければ許されると思うなよ!こいつらどうすんだよ!」


 俺が焦りを露わにする中、横ではすらりとした手が上がった。


「でしたら私の神聖魔法で――」 


「そのために僕がいるじゃないか!全て焼き払ってあげよう!」


 おい。


「私の神聖魔法ならアンデ――」


「勇者である僕に任せてくれたまえ!」


 おいおい。


「分かりやすく遮ってんじゃねえよ!そんなに力を見せ付けたいならほら。あのアンデットオオカミを焼き払ってくれ」


 少しエルスには悪いがハクヤの実力を見るためにもここでアンデットオオカミ達を焼き払って貰うか。それに失敗してもヒーラーであるエルスの神聖魔法ならすぐに浄化出来るだろう。


 俺はエルスとイブを連れ、その場から離れる。

 ここまで待っててくれたアンデットオオカミには感謝の言葉を言いたいぐらいだ。


「ふっふっふ…僕の力を見せる時が来たようだね!見るがいいさ勇者の力を!」


 背中の大剣を構え、魔力を蓄える。 


 次第にハクヤの持つ大剣が段々と赤く燃え上がっていき、その炎の熱さは10メートルほど離れた俺達のところまで伝わってくる。

 そして……


「フォーエバーフレイム!」


 


 いや、こいつ……


「お前は魔法使いかよおおおおお!!!!」


 絶対にイブと武器反対だろ!どこに大剣から魔法を放つ奴がいるんだよ!

 ……いや、待てよ。もしかしたら大剣から魔法を使うやつだって世の中には……


「ふむ、やはり剣では威力が上がらないか」


 ただのアホじゃねえか。


「……一応聞くがなんで威力が上がらないのに大剣使ってんだよ」


「普通の勇者ならば杖でチート魔法を使うからね。逆張りだよ逆張り。そっちの方が面白いだろう?」


 もうオオカミに食われちまえよ。


 てかなんだよ『ちーと』って。だがまあ、一応アンデットオオカミは燃え尽きてるし文句は言えないが。

 ふと周りを見渡してみればアンデットオオカミがいた場所は跡形もなく燃え尽きている。神様は変なやつにこそ才能を与えるらしい。

 だが同時に気付いたこともある。


「……なんか炎が消えないんだけど」


 俺のその言葉にハクヤは嬉しそうに反応する。無駄に顔が良いだけに数発パンチをかましたくなるな。


「当たり前じゃないか!フォーエバーフレイムは自然には永遠に消えない炎を放つ!まさに勇者の僕にピッタリのスキル――」


「みずううううう!!!」


「な、僕の神秘の炎を消そうとするとは!恥ずかしくないのかい?」


「バカか!周りの草に燃え移ったらここら一帯焼け野原だぞ!そんな事になったら賠償金で依頼主の俺の金が人々の怒りの炎によって消えていくんだぞ!」


 そう言っている間にも炎は燃え広がっていく。クソッ!随分と炎が広がるのが早い。


「水魔法はねえのか!?」


「任せたまえ、僕はオールマジシャンだ。全属性の魔法を使うことが出来る」

 

「ホントに宝の持ち腐れだな!やるなら早くやれ!」


「ふっ…言われなくても。エンドレスレイン!」


 直後、スキルの発動により空に大きな雨雲が出来上がる。雨雲はどんどん上空で広がっていき、遂には俺達から見える範囲を全て覆い尽くした。


「凄えな!これなら消えるぞ!」


「ちなみにこのスキルは永続的に雨雲を発生させる代わりにボスモンスターを呼ぶ」


 は……?


 ドスン―ドスン――ドズン…。


 なにやら大きな足音が近付いてくる。音からして全長5メートルはあるだろうか?


「ババババババカァッ!!!どうしたらこんなに問題を起こせるんだッ!!」


「バカとは失礼だね。炎を消すことも出来てボスモンスターも倒せる。一石二鳥じゃないか?」


「お前、美味しく頂かれて来いよ……俺達その間に逃げるから」


 そんな事を話してるうちに足音はどんどん近付いてきて……そして止まった。

 雨が降り注ぐ中、木々の隙間から不気味な顔が覗く。


「おいおい…でかすぎだろ…」


 その言葉にエルスが反応する。


「ッはい!……この辺り一帯のモンスターを統べている言われ、体は105匹のオオカミから出来ているボスモンスター、『105匹オオカミ君』の襲来です……ッ!」


 なんともメルヘンチックな名前のボスモンスターの襲来だった。

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