re:雪女

昆布 海胆

re:雪女

とある田舎に仲の良い老夫婦が住んでおりました。

ある日の夜、夫婦は縁側に座り月を見上げて語りだします・・・


「お前の横顔を見てるとあの日を思い出すな・・・」

「あの日?どんな日ですか?」

「あぁ・・・あれはな・・・」


男は妻に話して聞かせる・・・

昔、男が若い頃に父親と狩りに出た日の事を・・・





その日は猟をしに父親と二人で雪山に入って行った。

何時の間にか空は雲で覆われ、吹雪となった。

親子は雪山を迷いながらもなんとか木こり小屋を見つけ夜を明かすことにしました。


「火は起こせたが、朝まで決して寝るんじゃないぞ」

「分かったよ父ちゃん」


チロチロと燃える囲炉裏の火に当たり、朝まで互いに起こし合って生き延びようとしたのですが気付けば二人とも眠り込んでしまいました。

二人が寝入ってすぐ外の吹雪の風が強く、戸がガタンっと開き建物の中まで雪が舞い込んできます。

そして、囲炉裏の火がフッと消え室内は一気に寒くなります。


「うぅ・・・寒い・・・」


子供は寒さで目を覚まし、すぐ前に立つ人影を目にしました。

若く美しい白い肌の女の人でした。


「綺麗な人だな・・・」


子供がそう告げたその時でした。

女の人は父親の顔に息を吹きかけます。

すると顔から全身がどんどん白くなっていき、父親はそのまま息を引き取ってしまいました。


「ゆ、雪女?!」


子供が父親から聞いた事の有る妖怪が目の前の女の人なのだと理解し声を上げます。

必死に逃げようとしますが、外は吹雪・・・

そして、雪女が子供の方を見て息を吹きかけます・・・

冷たい・・・なのに暖かいその息に子供は安らぎを感じながらゆっくりと目を閉じようとしました。

ですが・・・


「アナタはまだ若々しく、命が輝いています。だから助けてあげましょう、でも、今夜の事をもしも誰かに話したら・・・その時はアナタの美しい命は終わってしまうでしょう」


その言葉を残して雪女の姿は消えてしまいました。

朝が訪れ、目を覚ました子供の前に在ったのは氷漬けとなった父親の姿だけでした・・・





「と言う事が昔あったのじゃ・・・」


そこまで話して男は目を見開いた。

隣に居た筈の老婆が、いつの間にか若返っており白い服を身にまとっていたのです。


「アナタ、とうとう話してしまったのね、あれほど約束していたのに・・・」

「っ?!」


そう言って雪女は男に白い息を吹きかけます。

みるみる縁側に座っていた老人の姿は白く染まり、息を引き取ってしまいます。


「さようなら、愛しい人・・・」


その一言を残し、雪女はその姿を消し・・・

後に残されるのは氷漬けの夫だけであった・・・















朝日が顔に当たり、ゆっくりと目が開かれる・・・


「うーん・・・やっぱり若い体は軽くて良いなぁ♪」


凍った父親の死体の前で伸びをする子供、凍死した父親の遺体には目もくれず手慣れた様子で下山準備を進める・・・

誰も知らない、雪女ですらも知らない、この少年が雪女に話を暴露して凍死させられるとこの日に舞い戻ってしまう死に戻りを繰り返している事に・・・

未来を知るこの子供が好き放題に人生を謳歌するのはまた別のお話・・・


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