そして彼女は
*
ケイト宅を襲撃した『世界平民救済党』は、駆けつけた国軍対テロ部隊によって大半が射殺された。
確保された数名の証言により、その後、1ヶ月間に渡って国内各地の拠点が摘発された。
その際、東平野州本部を含めた全てで構成員が抵抗し、爆弾を抱えての自爆攻撃などもあって、軍や警官隊はそれなりに損害を被りはしたが、『世界平民救済党』の壊滅に成功した。
確保された首領であるシレイヌと、機を見て投降した幹部数名は裁判にかけられ、幹部は司法取引により実質的な終身刑、シレイヌはそれを拒否したため死刑判決が下った。
一方アマンダは、政府にとって目の上のこぶとなる要人を殺害し、犯罪に手を染める貴族の情報を提供したため、罪には問われず証人として政府に保護される事になった。
証人保護プログラムにより、アマンダはサマンサと改名し、傷が癒えるとケイトの元でメイド見習い兼私兵として雇用された。
*
「罪を償ったわけでもないのに良いんだろうか……」
「今、自分がやった事は悔やんでいるのでしょう?」
「おう……。――あっ、はい」
メイド服を纏って執務室へ挨拶にやってきた、アマンダ改めサマンサは、浮かない様子で忙しく執務中のケイトへ、うっかりタメ口になりかけながらも返事する。
特に仲が良かった前職の使用人が、セシリアと同じ様な目にあったと騙され復讐のために参加していたが、その7名全員が生存していた。
「自覚があるなら、それでいいじゃないの」
と、ケイトが言ったタイミングで、ドアが控えめの音を立ててノックされ、
「ア……サマンサさん!」
ケイトが返事するとセシリアが控えめにひょっこりと顔を覗かせ、振り返ったサマンサを見て明るい表情を浮かべる。
「ふええ……。良かったですぅ……」
「おいおい。泣くなって」
とことこ、とサマンサの元にやって来たセシリアは、いきなり嬉し泣きをし出して彼女に抱きついた。
「じゃあ、セシリアを教育係につけるから、メイド見習いとしてよろしくね」
引き剥がすわけにもいかず、困り顔で手が右往左往しているサマンサを見て、傍らのイライザやアイリスと共に、ケイトはにこやかな笑顔でそう告げ作業に戻った。
「ああはい。……ところで、イライザは何やってるんですか?」
「私の護衛兼、精神安定要員よ」
「はあ……」
あんまりにも当たり前な調子で答えるので、そういうもんか、と半ば流される様にサマンサは納得した。
「で、何をすれば良いんだセシリア?」
抱きつくのを止めたが、まだグスグス泣いているセシリアに、サマンサはハンカチを渡しながら訊いた。
「私はそのっ、お洗濯とお部屋掃除以外はなにも出来ないので……」
「じゃあその2つって事だな」
「そ、そうですね……。はい……」
ちょっとオドオドしているが、前と違って怯えている様子は一切無い、とサマンサが感じ取るのは難しくはなかった。
執務室を出て、1階のランドリーに向かう道中、
「……ごめんセシリア。お前の恩人にとんでもない事しかけて」
申し訳なさげに俯きながら、サマンサは隣をひょこひょこ歩くセシリアへ謝った。
「さ、サマンサさんは何もしてませんし、お嬢様が許されるというなら……。はい……」
「……そっか、ありがとな」
「悪い事をした自覚がある人は許しなさい、というのがお嬢様の教えですので……」
感謝されるような事はなにも、と照れた赤い顔をしてもにょもにょと言う。
「良い人に、巡り会えたんだな」
「はいっ」
すっ、とセシリアの頭を撫でてそう言うサマンサへ、彼女は穏やかな笑顔で少しはしゃぐ様な声を出した。
教えるのが下手だから、というセシリアの申し出で、まず普段の様子を観察する事になったサマンサだが、
「すげえ……」
大掃除のため、籠にたっぷり溜まった洗濯物を触っただけで捌くセシリアに、口をあんぐりさせてただただ圧倒されていた。
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