噛み砕いた雨

リクルート

第1話

雨が降っている。


雨は嫌いだ。





〜3年前〜

「どうしてうまくいかないんだ!」  

僕は小説家を目指している者だ。初めて出した小説 『停滞ボーイ』がアホみたいに売れて、新人優秀賞を取った。 だがその後人気は停滞。 「一発屋」とか「人気『低下ボーイ』」とか、散々言われ続け、2年がたった。 

「どーした〜あき、また詰まってんのか?」

こいつは大輝だいき、俺と同世代の小説家。同じ代の時、新人金賞をかっさらった奴だ。 

新人作家で飲みに行った時、意気投合して、『これからは東京によくいくから』と親に言い残して2人で東京の離れの駅近の狭いマンションにやってきた。

こいつはもちろん今も大活躍中。 俺とは雲泥の差だ。

そしてこいつは、超がつくほどいい奴。 家賃は半分ずつと最初決めていたが、今は7:3、いや8:2ってレベルだ。 情けない。

「あんまコン詰めるなって。 酒でも飲みにいくか?」

「まだ昼だぞ? ってかこっちは外野からの批判が凄くて次回作で結構焦ってるんですー! 大賞のおまえに少しでも追いつくために頑張ってんの。 わかる?」

「いい意気込みだな。 じゃあ俺はコンビニで酒買ってくるわ」

「聞いてた?」

「いつものやつでいいよな?」

「おう!」

やっぱりいい奴だ。 仕方ないから、こいつの机でも掃除しといてやるかな...

ん?なんだこれ、ファンレター?

[新人賞取ってからおまえつまんなくなった。 さっさと消えてくれ]

[去年の作品の10万倍つまらん 死ね]

[小説を書く資格は君にない]

(全て謎のサインが同じところに書かれている)

なんだこれ...こんなのがいっぱい...あいつ気にしてないといいけど...




この後あいつが帰ってくることはなかった。




俺たちの住むマンションから飛び降り自殺をしたらしい。目撃者は、[ごめんなさい。って連呼しながら号泣してたから、声をかけようとしたら一瞬で飛び降りてしまった。 救えなくて申し訳ない]と言っていたそうだ。のちに調べると、あいつの親族は去年亡くなっていて、度々カウンセラーに訪れていたようだ。カウンセラーではいつも小説の悪口についてだったらしい。あいつは繊細だった。

こんなに俺は世話になったのに、こいつの相談相手にさえなってあげれなかった。なんてなさけない。






雨が降っている。

雨は嫌いだ。

雨は地上から天へと循環する。時には人の恵みになるが、大災害で傷つける。

言葉も同じだ。 循環して、時に恵みに、ときに刃物に。

わたしたちがそのボタンひとつで打っている言葉はまるで雨だ。







〜2年後〜

「いや〜まさかあのどん底から大賞を取ってしまうなんて、すごいですね。」

「はい。ありがとうございます 『噛み砕いた雨』 ぜひ読んでみてください〜」

「そうですか、きっと天国の大輝先生もさぞ喜んでるでしょうね」

「いや、そんなことないと思いますけどね〜」

「え〜なんでですか」

(ポケットから昔大輝に送られてきた批判の手紙を10枚ほど出す)

「こんなこと言われて亡くなって、天国で笑顔には、なれないんじゃないですか」

(手紙の左下には全て秋の昔使っていたサインが入っていた。)







ごめんな大輝、でもお前がいると大賞ぜってえ取れたかったからさ、すまんな、こんなことして。







言葉も噛み砕けばまた新しい意味が生まれる

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