夸父追日

高麗楼*鶏林書笈

第1話

「お天道様は、何処から出て何処に沈んで行くのだろう?」

 ずっと気になっていた疑問を解こうと少年は、ある日、太陽を追いかけていった。

 彼が家を出た時は真上にあった太陽は次第に西に移って行った。彼は歩みを速め、遂に駆け始めた。

 しかし太陽の方が進みが速く、地平線に達してしまった。

 夢中で疲れも忘れて走り続けた少年は、周囲が暗くなってようやく我に返った。見知らぬ光景が広がっていた。

「どうしよう、家に帰れなくなってしまった」

 ベソをかき始めた少年の周りに村人たちが集まって来た。

「見かけない子だねぇ」

「どこの子だろう?」

 人々があれこれ言っていると、

「坊ちゃん、何でこんな所に‥」

と言いながら行商人が少年に近付いて来た。

「あんた、この子知ってるのか?」

 村人の一人が訊ねると、自分のお得意の家の子息だと答えた。

「そのお屋敷は二つ先の村ではないか!」

 こんな小さい子がよくここまで来たものだと皆、一様に感心した。

 行商人は少年を背負うと荷物を積んだ驢馬を牽いて去って行った。

 自宅に着くと家中の者が少年を出迎えた。暗くなっても帰って来ない息子を探していたのであった。


 彼は「山海経」を閉じた。夸父追日の物語を読みながら少年時代のことを思い出した。    

 夸父も太陽を追ったが追い付けず倒れてしまった。人々は彼を身の程知らずという。幼き日の自分も無知で身の程知らずだったのだろう。

 夸父は倒れた後、身体は灰と化し、血は河川に変わり、手にした杖を桃林になったという。

 自分は成人し観象監に身を置くようになった。そして今も“太陽を追う”仕事をしている。

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夸父追日 高麗楼*鶏林書笈 @keirin_syokyu

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