第21話 危機を脱したらこの限りある命に感謝して


前書き


当たり前の日常は実は当たり前ではない




第21話 危機を脱したらこの限りある命に感謝して


暗い・・・陽が差し込まないので当然だが僕達を照らす光以外何も無い。

道は冬の道同様細かく入り組んでいる。どんな罠が仕掛けられているかわからない以上警戒して進む必要がある。


想里愛「あまり奥に行くのは危ないかもしれません・・・慎重に行きましょう。」


翠「雪が見えるところまでははっきり足跡が見えたのに、中には痕跡すらない・・・これは一体・・・」


里乃愛「わからない・・・だけど警戒すべきだね、きっとこの中に魔物は居るよ。」


静寂が辺りを包みたまに雪解け水のどこかから滴る音のみが静寂の中に響く。緊張は高まっていく。


咲桜里「あれ、今前を何かが横切ったような・・・。」


僕には視認できなかったが何か居るのかもしれない。


翠と里乃愛「危ない!」


肩をつかまれよろめくように2、3歩後退すると何かの塊がどぼっと落ちる。それが地面に落ちると接していた面が溶けていきあっという間の落とし穴とも言える大きさまで窪みが広がる。これは冬の道で見た穴と同じものなのか?


真樹「何か危険な魔物がいるみたいだね、これ以上奥に行くのは危険だ、引き返さないと・・・」


想里愛「ま、真樹さん・・・」


力無く僕の袖をつかむ想里愛。不自然な違和感を感じて少し道を戻ると行きとは明らかに違う一本道が僕達の前に姿を現している。


咲桜里「こんな道通って来ていないのに・・・」


さおりの表情にも不安が広がる。とんでもない場所に踏み入れてしまったのではないか・・・。


里乃愛「これは転移してすぐに帰ったほうが良いね、翠ちゃん・・・あたしが魔法を構築して発動するまでの間守ってくれる?」


翠「ボクに任せてよ、こういう事態も予想してたんだ。」


慣れた様子で皆と自身に身体強化を施し、複製魔法で用意しておいた魔力を増幅させる光る樹の実を丸かじりする翠。強力な結界を張り周囲を警戒する。奥から何かが蠢きこちらへ向かってきている・・・。


想里愛「えっ・・・!」


振り向くと何もいなかったはずなのに入口からも蠢くものがこちらへ向かってきている。

・・・黒い百足?やがて群れの塊が結界に当たり先程の溶解液が結界に降り注ぎ醜悪な臭いを発する。

よく見ると血まみれですでに中の魔物も狩られているのか・・・?


翠「くっ・・・今の魔力じゃ防ぎきれない。咲桜里ちゃんもう1つ光る実をボクに頂戴!」


咲桜里「うん!これで足りる?」


返事をまたずに2つを一気に口に運ぶ翠。それほど切羽詰まっているのか・・・!


里乃愛「できたよ!もしも蟲ごと転移したら大変だからすぐ近くまで来て!」


蠢く蟲はますます数を増やし僕らを圧迫する。先頭の蟲が押しつぶされて体液が滲み出ている。歪な音が響き結界が破れそうだ。・・・まずい。ヒビが広がってもう限界かと言うタイミングでなんとか冬の道と秋の道の間に転移する事に成功する。


里乃愛「想里愛ちゃん家だと術式が間に合わなくてここに転移したよ・・・」


皆疲れ切った顔だが安堵している。危機を脱したようだ・・・助かった。


想里愛「ここもまだ安全とは言い切れません!周囲に気を付けながら帰りましょう。」


想里愛の言う通りだ。あの蟲がこちらに向かってくる可能性だってあるんだ。襲われても僕には何もできない。なんて無力なんだ。入り組んだ道を帰っていく。ダンジョンの中と違い冬の道は行きと同じ道なのが救いだ。


咲桜里「ここまで来れば平気かな?」


秋の道の頂上を降りていく。頂上で冬の道のほうを見たが魔物が迫ってくる事は無かった。紅葉の並木の休憩ポイントで腰を降ろす。


里乃愛「みんな疲れたでしょ?想里愛ちゃん家に転移するね」


翠「念の為・・・」


翠が結界を張り転移までの時間を待つ。・・・無事に想里愛の家に転移する。


想里愛「ふぅ・・・これで一安心ですね♪」


真樹「皆のおかげで助かったよ・・・もう危険な冒険は控えなきゃ・・・」


翠「あれは誰も予想できなかったから仕方ないよ・・・」


里乃愛「そうだよ!今生きている事に感謝してこれからに生かせばいいんだよっ♪」


咲桜里「さおりもそう言おうと思ってた!」


僕が無力なのがいけないんだ。この街の人のように護身術があれば身体強化もあるので役に立てるかもしれない。街に道場でもあれば通えるのだが・・・。空を見ると日が沈みかけている。時間が経つのが早い。

家に入りリビングの椅子に腰掛ける。夕食にはまだ早いので温かいお茶を皆に出す。


里乃愛「ところでこれなんだけど・・・」


ん?何かの塊を取り出す里乃愛。先程のダンジョンの壁ぎわに落ちていた鉱石の原石のようだ。所々に小さく煌めいている、何かの金属・・・?


翠「これは・・・魔銀?」


里乃愛「そう・・・魔力を一時的に貯めて術者の術式を増幅させる装置として機能するし、武具防具としても優秀な素材で魔法が使えない戦士や剣士でも、身体強化の魔法をかけてもらえば装備にも身体強化が施されて爆発的な攻撃力と防御力を発揮する夢の金属だよ」


想里愛「万年樹の地下で戦った魔物のような闇を祓うとも言われてますよね・・・そんなすごい素材があるなんて。」


咲桜里「でも咲桜里怖いから、あの場所にまた行きたくないよ~」


まさかそんな貴重な金属があの場所に眠っているとは・・・魔物さえ追い払えれば夢の様な採掘場なのだろう。しかし咲桜里の言う通り危険が多すぎる。行くわけにはいかない。

ずっと精霊の人形を見ている里乃愛。確か人形を用いた転移には準備時間が無いな。何かヒントを掴んだのだろうか?里乃愛が白い布をテーブルに広げ手をかざすと・・・神秘的な模様が浮かび上がっていく。


里乃愛「考えたんだけど・・・これが想里愛ちゃん家に転移する魔法陣。この魔法陣をあたし達だけが通れるように聖域を張って守ってから、空間魔法も駆使してあのダンジョンであたし達の移動に合わせ動き、あたし達が転移する時にはその場に停止する魔法陣を用意すれば・・・」


翠「想里愛ちゃん家にも向こうのダンジョンへ行けるようにもう一つの魔法陣を張って、もう1つの魔法陣と繋げる・・・ってこと?」


咲桜里「それだと、聖域が破れちゃったら魔物もこっちに来ちゃうんじゃないの?」


里乃愛「転移した後には自動で魔法陣を消しておくし・・・もしもあたし達以外が来ても発動しないように作るけど・・・作れるって事は作り変えられる可能性もあるから・・・念の為にね」


翠「それに里乃愛ちゃんなら転移される前に感知して対処できるし大丈夫だと思うよ」


真樹「そんな事ができるなんて・・・里乃愛はすごいねっ!」


想里愛「二重の対策があるなら安心ですね♪」


里乃愛の心の声「最悪山ごと消えて無くなりそうだしあの時は焦ってたけど・・・あたしが剣を一薙ぎしたらあれぐらいの魔物なんて全滅させられるけどね♪」


里乃愛「ちょっとトイレ行ってくるね♪」


そして扉を閉めると一瞬で転移し報復に来た殺戮の天使が前後に一薙ぎずつしただけで蟲達が壊滅した出来事を知る者は誰も居ない・・・。


想里愛「装備を整えたほうが採取もより安全になるし鉱石を取りに行くのも危ないけど・・・楽しみですね!」


真樹「そうだね!あの時は何も出来なかったけど・・・僕が皆を守るから!」


里乃愛「真樹くんかっこいい・・・♪」


咲桜里「さすがお兄ちゃん♪」


想里愛「さすがあたしが惚れた真樹さんです・・・♪」


あるぇ?まだ何もしてないのにすっごい頼られてるぞ・・・やべー早く道場通わなくちゃ(使命感)


翠「ダンジョン内の土や埃で少し汚れちゃってるね・・・あたし達の作った鍋で夕食を済ませてお風呂入ろ~?」


そうだ、しっかり英気と鋭気を養い明日に備えよう。明日もダンジョン通いかな・・・すぐに鉱石が採掘できると良いのだが・・・それにしても彼女達の作った鍋は美味しいなあ。


想里愛「夜になるまで寝かせた分、味が具材に染み込んでいて美味しいね♪」


翠「なんて完成度だ・・・朝よりも美味しいなんて」


咲桜里「料理は奥が深いんだね♪」


里乃愛「夜も美味しく食べられて良かった♪」


コンビニのおでんは何回も冷めすのと煮詰めるのを繰り返すという・・・日々を有意義にする為には味を追求するのもとても大事な事だ。


真樹「ごちそうさま~!」


鍋の中はあっという間に空になる。モツの歯応えも野菜の染み込んだ味も美味しかった。


翠「あ、源泉がたまってきたみたいだよ♪」


庭を見ると復元魔法で僕の家と同じ配置で作ったサウナ室や翡翠の湯舟が映る。毎回ものを転移させるのは大変なのでこうしたほうが正解だ。この前のプールで良いところはすぐ真似たほうが良いと考えハンモックと横になれるチェアを人数分購入しておいた。即日発送は有難い。


想里愛「さっそく着替え部屋に入室~♪」


咲桜里「木造りの部屋に畳・・・落ち着くなあ♪」


真樹「さっ・・・入浴だ!(きりっ)」


翠「真樹、それはボクの台詞だよっ!」


良いツッコミがテンポよく入る。さっ・・・僕達の入浴はこれからだっ!(湯船に向かってジャンプ)


里乃愛「なんか打ち切り漫画の最終回で見たような解説の台詞が・・・」


真樹「きっと気のせいだよ~」


おお、竹から伝う源泉が良い具合に湯舟にたまっていて湯気の具合で温かそうなのがよくわかる。この熱気・・・すごく良い。


想里愛「真樹さん、先にシャワー一緒に浴びよっ♪」


天使が僕に密着して素晴らしい感触が伝わる。まったく、お風呂は最高だぜ!


想里愛「真樹さんのシャンプー気持ちいい~♪」


人は洗われなければならない(某格闘漫画の監獄の中の人風のポーズ)


真樹「そうかな、ご満足頂けたようで何よりだよ~♪」


咲桜里「お兄ちゃん、そんなことより早く咲桜里とサウナ入ろっ!」


すると愛しい彼女は忍びの如く低空姿勢で風を切り裂くような速度で咲桜里の背後を取ると腕を掴み組み伏せる・・・あれは・・・腕挫十字固!?


想里愛「さおり・・・今はあたしが真樹さんに愛してもらう大事な時間なのよ・・・さおり如きがしゃしゃり出てくる流れじゃないんだからねっ!(ツンデレ顔)」


咲桜里は片手を地面にタップしている。確かにそんなことより、は失言だったのだろう。この弱肉強食の世界は残忍で過酷だ。想里愛が椅子に座りなおすと僕は怯えた子羊のような顔でシャンプーで洗う。ご機嫌を損ねないように。


想里愛「えへへ♪丁寧に洗ってくれてありがとうございます♪真樹さん大好きっ!」


愛しい彼女の抱擁からの熱い接吻を受ける。神よ命よ空よ宇宙よ・・・この限りある命に感謝致します。


翠「もう真樹ったらそんなにふにゃけた顔しちゃって・・・まだ湯船にも入ってないんだよ?」


ふと前かがみになる翠のちらりと見える谷間は成長期のようで良い大きさに育っている。形もベリーグッドだ。こういう日々の気付きって大切だなと思う。


里乃愛「さっ・・・湯舟入ろっか♪」


彼女達もシャンプーを済ませたようで足を伸ばして広い湯舟に全身を浸からせる。良い温かさだ。


咲桜里「さおり熱くなってきたよ~」


石段に座り竹から流れる源泉に背中を当てる咲桜里。髪がしっかり胸元を隠しており健全な姿が映っている。

あれはあれで風流があって良いなあ。周りの鳳尾竹も雰囲気を引き立てていてとても良い。


真樹「だいぶ温まったしチャアーに横になって星空見よっか?♪」


昨日のプールのように皆で横になり群青を終えて宵闇と小さく輝く天体が広がる上空を眺める。この素敵な景色を見られるのも皆の機転のおかげだろう。感謝しなければならない。


想里愛「真樹さん、こちらを向いてみてください♪」


隣の想里愛の方向を向くと胸にかかった髪をゆっくりと逸らし妖艶で艶やかな乳房を遠慮なく僕にさらけ出す想里愛。僕の興奮はとどまることを知らず天空の果てまで羽ばたいていくような気分だ。


想里愛「真樹さん好みに育ってますか・・・?」


真樹「うん、100点満点だよ!」


想里愛「良かった・・・♪」


チェアを僕のチェアに繋げて甘えてくれる想里愛。愛しい彼女の愛に感謝する僕。


咲桜里「さおりはチェアで少し仮眠するねっ♪」


僕のチェアのもう片方に咲桜里のチェアを繋げてから僕の方を向き目を瞑る咲桜里。可愛い寝顔を少し撫でると目を閉じたままだが満足気な笑顔になる。


想里愛「まったくさおりは甘えん坊なんだから・・・」


里乃愛「あたしは翠ちゃんと少し入ってくるね♪」


翠「代謝をあげてバストもアップ!」


そんな方法があったのか・・・!関心する僕を尻目に奥のサウナ室へ歩いていく二人を見守る。


想里愛「真樹さん、二人きりになれましたね・・・♪」


抱きしめる力が強くなる。確かにこんな好機はなかなか訪れないだろう。このタイミングで彼女を愛さなければならない。(某格闘漫画の監獄の中の人風)


真樹「ふふ、こっちにおいで・・・♪」


そう言いつつ彼女を抱き寄せて愛を深めていく。丈夫なチェアなので少し動いた位ではビクともせず肌に接する部分は柔らかい良いものを買っておいて良かった。吊り橋効果に近いのだろうか・・・命の危機を乗り越えた後の愛の確認は留まることが無い。


想里愛「もっと触って・・・」


真樹「うん・・・一生一緒に居ようね」


火照る彼女の表情も彼女の温もりもその瞳に体にしっかり噛み締めさせる。咲桜里が寝てるか寝てないかも確認せず気にせずに想里愛を愛し続ける。前から抱いて彼女にも手足を絡ませられて休んでいると・・・足跡がペタペタと聞こえてくる。続きはまた眠る前かな?名残惜しそうに手足を解く彼女にまた唇を合わせる。


翠「ふう、良い汗かいてきた~♪」


里乃愛「あたしにはちょっと長かったみたいで疲れちゃったあ~」


僕のチェアの足のほうに里乃愛が座り前かがみに僕の方を向き頭上から僕を見つめる。

圧倒的な二つの山が柔らかそうに揺れて色っぽく視界に映る。


真樹「疲れたならしっかりここで休まないとね♪」


里乃愛「うん、里乃愛ここで休むね♪」


翠も近くに寄ってきてくれて僕の周りを皆が幸せな視界で包んでくれる。まったく、食後の余暇は最高だぜ!こうして満足なひと時を過ごし湯舟を上がり寝室へ入る。明日は朝早くパジャマを購入し午後からダンジョンへ向かうと話し合い決める。普通の服だと眠りにくいだろうしパジャマ姿の皆を見るのも楽しみだ。想里愛を僕の布団へ入れて電気を消して就寝する。疲れで少し本当に眠ってしまい気が付くともう片方の隣には翠が入ってきてくれたようだ。昨日と同じようにかぶっているフードを外して頭を撫でる。良い寝顔だ。

想里愛を見ると彼女も疲れで眠っているみたいだ、だいぶ歩いたから仕方ない。愛しい将来のお嫁さんを見つめて頬に口付けして頭を撫でる。無理に起こしたら悪いし睡眠を取らないとお肌にも悪いだろう。明日の夜を楽しみにして僕もこのまま眠る事にした。




後書き


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