転生罪人は悪をもって悪を制す
ASA
エピソード 1 : 聖戦
1
死者の群れが横たわる荒野に、天使が転がっていた。
背中に金属で形成される機械的な噴出口が二つ。
そこから噴水のように溢れ出ていた虹色の翼は消え、代わりに鍛えられた肉体の至る場所から真っ赤な血が流れている。夥しい出血量に追い打ちをかけるように、強い日差しが照りつけ容赦なく精気を奪っていく。
「おい」
朦朧とする天使に聞こえたのは、低い男の声。
焦点の定まらない視界には、徐々に近づいてくるぼんやりとしたシルエットしか捉えることが出来なかった。
「あんな高さから落ちてまだ生きてるのか」
男の言葉に天使は顔をしかめた。
天使が使役する
致命傷となったのは、二つの魔法を破って腹部を撃ち抜いた緋色の閃光だった。
「貴様…」
天使を傷つけることは不可能ではないが方法はかなり限定される。
主に天使と同等の魔法を使う、またはその威力に相当する大型の銃火器で防護膜を突破するまで当て続けることに絞られる。
目の前に立って見おろす男は確かに銃を持っていた。ただ、その形状は対大型魔獣用の大砲などではない。
あまりにもシンプル過ぎる形状の黒い銃。散弾銃や狙撃銃に酷似していたが、魔鉱弾を再装填する機構が存在していない。銃身はグリップなどの僅かな箇所を除き、ほぼ単一の鉱物で成形されていた。
「お前がどんなクソ野郎でも、祈る時間くらいは待ってやる」
「…不意打ちをかけたやつの台詞とは思えんな」
それもそうだ、と頭を掻く男の輪郭を天使の眼はようやく捉えた。
褐色肌と妖しく美しい作り物のような緋色の瞳。溢れるような魔力量。
この男を、天使はよく知っていた。
「こんなところにいたのか…ゼノ」
腑に落ちたとでも言うように、天使は力が抜けた声で呟いた。
それを聞いた男は小さく溜息をつき、急に眼光が鋭くなった。
「悪いけど俺にはユウリって名前があるんだよ」
言い終わると同時に天使の眉間に銃が向けられた。
黒い銃身には緋色の文字がいくつも浮かび、ユウリは引き金に指をかける。
「先に地獄へ行ってな」
———その姿は、冷酷な悪魔を彷彿とさせた。
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