御使(みつかい)
平 一
御使(みつかい)
人類はついに、寿命を迎えた人々から
大量高速演算や共有人格形成の能力を得て、
先進種族の仲間入りを果たした。
その共有人格は、他の先進種族と同様に愛らしい少女の姿をとりながら、
全人類の量子人格と
『現皇帝種族は、かつて〝先帝〟種族のもとで文明開発長官を務めた時、
〝先帝〟を神に見立て、自ら悪役を演じる神話なども用いて、
当時の私達人類を含め、多くの若き種族の文明発展を支援しました。
彼女は支援事業のなかで、様々な技術と政策の分析を可能とする、
文明の発展理論を発見しました。
側近種族同士の内戦により〝先帝〟種族が滅亡した時、
彼女は〝先帝〟の生存人格群や友好種族から支援を受けながら、
その文明理論に基づいて、国家の再建に挑んだのです。
彼女は新たな次世代技術と、
様々な種族の適材適所を図りつつ、
平和回復と国家の復興に成功しました。
彼女の理論とその実例は、次のようなものでした』
『技術と政策は、文明社会を支える二本柱です。
文明活動の本体は、全ての人々が営む経済・社会活動ですが、
富を生み出し、これを豊かにする活動が科学・技術、
富を分け合い、これを健全に保つ活動が制度・政策です。
しかし、技術は物的資源に具現化しないと社会を豊かにできず、
政策は人的資源を得て実現できないと社会を健全に保てません。
また、政策的な努力によって次世代技術を開発する際には、
資源の入手や人々の価値観など、自然・社会環境への考慮も必要です』
図:https://19084.mitemin.net/i360522/
『皆で作る社会と、それを支える技術、政策、
そしてそれらに必要な、モノ、ヒト、環境という文明六要素の関係から、
技術と政策は、次の十二の
図:https://19084.mitemin.net/i360580/
『第一、第二の
技術と政策が経済・社会活動に大きく、直接的に働きかける、
いわば直接
それは農業、工業、情報技術のように、
社会を大きく変化させ、文明の発展段階を
産業、財政、福祉、社会保険政策のように、
社会に直接働きかけて、人々の利害を調整する経済・社会政策です。
理事種族アスモデウスは、現在の主力技術というべき種族間融和技術、
共用人格
理事種族アドラメレクは、発展途上の宙域が多く、
酸素・炭素系少数種族との不和に悩む、広大な銀河系外周星域において、
最大規模の経済・社会政策を展開し、社会の融和と発展を達成しました』
『第三、第四の
技術利用の条件である物的資源や、
政策実現の条件である人的資源を確保する、
いわば間接
それは、主力技術の大きな力を様々な物的資源に具現化する、
機械、電気、
人々の知的あるいは基礎的な能力を維持・向上させる、
公教育、公衆衛生などの人的資源政策です。
理事種族アモンは現在最も重要な周辺技術というべき、
超空間輸送・通信技術の専門家として、新国家を支えています。
理事種族ゴモリーは、アンドロメダ銀河の旧帝国系種族星域において、
教育・保健政策を推進し、民主化と自由化、生活の向上を実現しました』
『第五、第六の
技術と政策が担当組織自身の中で、科学・技術の研究・開発や
制度・政策の立案・実施を助ける、いわば自助
それは組織内の施設整備、組織運営や人材育成に関わる、
研究・開発技術と行政管理政策です。
理事種族ストラスは旧帝国時代から科学省長官を務め、
研究・開発技術における最高の頭脳と
理事種族アスタロトは、数万の種族からなる帝国艦隊の公正さを保ち、
行政管理政策における最善の手腕を示しました』
『第七から第十二までの
技術と政策がお互いを、広い意味で経済・社会活動の一部として
助け合う、いわば互助
それは政策を助ける社会工学的技術と、技術を助ける技術的政策です。
これらの
さらに次の三つの種類に分かれます』
『そのうち第七、第八の
相手方が経済・社会活動全体に働きかける直接
自らも経済・社会活動全体の中で広く働きかける、広域支援
それは経済・社会政策における社会的利害調整の効率性を高めて助ける、
財務諸表や法人組織などの会計・組織技術と、
社会を変える主力技術の悪用・誤用・副作用を防ぎ、活用するために、
環境、防犯、防災などの組織や
理事種族ヴォラクは、巨大な移動社会といえる帝国艦隊の、
組織運営も含めた技術部門の副長官として、
社会工学的技術に関する高い能力を証明しました。
また理事種族マルコシアスは個体群種族の時代から、
アンドロメダ銀河の中央部を事実上運営してきた種族として、
社会工学的政策に関する最良の資質を実証しました』
『第九、第十の
相手方の間接
私的な経済・社会活動では
それは、社会全体に関わる教育や健康を増進して、
人的資源政策を助ける公教育・公衆衛生技術と、
大規模施設の建設などを支援・調整して、
周辺技術による物的資源の整備を助ける
理事種族バールゼブルは、荒廃した旧皇帝領を復興させるため、
教育・保健技術を普及して民主化や生活向上を達成し、
それらの技術における最良の業績を示しました。
理事種族ベールは、巨大惑星に住む群体性の非酸素・非炭素系種族用に、
多数の惑星移動機関や分離個体生成設備を建設し、
『第十一、第十二の
相手方の自助
公共性や権力性という特殊性をもつ研究・政策組織に必要な支援を行う、
いわば
それは、政策立案を効率化する
科学研究・技術開発の健全な推進を助ける研究・開発政策です。
理事種族アミーはバールゼブルの技術部門副官として、
彼我の犠牲を最小化しつつ強大な旧帝国軍を撃退する作戦計画を考案し、
また理事種族グラシャラボラスは、バールゼブルの情報部門副官として、
戦闘の惨害を最小限に
これに成功して、研究・開発政策における最上の功績を挙げました』
『十三理事種族の一員でもある現皇帝種族サタンは現在も、
さらなる星間社会の発展のため、内なる〝先帝〟人格群と共に、
より多くの種族の長所を開発し、活用できるよう、
国政の民主化や地方分権、官業開放などの分権化を進めています』
『今や銀河系、アンドロメダ銀河の二大銀河と周辺の小銀河群を含む、
各種の技術と政策に
建設的な競争のもとで、星間社会の永続と繁栄に尽力しています』
『ゆえに私達もまた今後一層、他の様々な種族と協力し、
先進技術と人間的な政策によって、
新国家における経済・社会活動の持続的な発展に貢献し、
さらなる地位の向上を目指してゆきましょう』
〝人類の総意〟なるものが、本当に実現してしまったな。
まだ
生物・機械的な身体に
機材を使えばいつでも共有意識に参加できるそうだ。
文書、電磁記録、人工知能、さらには量子人格……。
知性を補い、高める技術が常に正しいという保証はない。
しかし生身や、生身の対話よりも正しい確率が高ければ、
それを使っていくしかない。
『人間が神魔の如き技術の力を得た今、
どうせなるなら〝責任ある神〟にならねばならない』という、
最近よく言われる、ある歴史家の言葉を思い出した。
上には上がいるけれど、天使ぐらいにはなれたかな。
寿命が克服できるなら、ある意味それは天国か?
それほど素直ではない、まだ生身の私はそう思った。
御使(みつかい) 平 一 @tairahajime
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
文明のひみつ/平 一
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 4話
AI文明論/平 一
★6 エッセイ・ノンフィクション 完結済 6話
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます