ミルシェとリリミカ(裏)
手紙を貰った翌日の午前中、俺はアカデミーの門をくぐっていた。知識としては知っていても、やはり実際に見ると違う。
「おぉぉぉ……」
王都の郊外、以前ミルシェと歩いた中央の大通りから西へ歩いた場所に王立統合アカデミーは鎮座していた。太陽の昇る方向を東といい沈む方向を西というのは、俺の耳が勝手にそう変換しているからだろうか。
この世界に来て最大級の建造物群であることは間違いない。
これらを上回るのは王城くらいだろう。だが恐らく総合的な敷地面積はアカデミーに軍配が上がる。
欧州の美術館みたいな石造建築物が規則正しく並び、同じような服装、つまり制服を纏った若人らがそれぞれの校舎に入っていく。
大通りの商店とは違う種類の活気にしばらく見入っていると、
「いつまでそんな所で突っ立っているのですか、ハイヤさん」
友好さのカケラも無い声で俺を注意してくる声がある。それは眼鏡が異常なほど似合う亜麻色の髪の女性。詐称Gのレスティアさんだ。今日も騎士団用の制服を着こなし、胸部を盛っている。
「田舎者丸出しの子供みたいではないですか。一緒にいる私まで恥かしくなるので止めて頂けませんか?」
追い討ちにも優しさは皆無だ。最初に王都へ行った折ミルシェ(天然K)にも言われた事を思い出したが、あの時とは何もかも違う。
とはいえ、この辺りの冷たさは俺に非があるのであまり言い返せない。
だというのに何故に俺はアカデミーに来れたのだろうか。
「あの、レス……クノリさん? この前は、その……申し訳ありません……」
ギロと目つきが鋭くなる。
「何のことかさっぱり分かりませんが謝罪など不要です。あと私のことはレスティアとおよび下さい。呼び捨てで構いませんし、敬語も不要です」
触れられたくない話題らしい。
「そうで……そうか。じゃあレスティア、俺の事もムネヒトって」
「それはお断りします。必要以上に貴方と仲良くするつもりなどありませんから。さぁ、早く行きますよハイヤさん」
冷たいよこの人。
「これだけ教えて欲しいんだけど、何で俺を採用したんだ? 素性の知れない人物なんだろ?」
面接はうやむやになってしまったし、俺を信用に足る人物かどうかは少なくともレスティアの中では決していないはず。なのに俺はこうしてアカデミーにいる。
「まずはブルファルトの推薦であるから、そして団長も非常勤の教員として貴方の派遣を認めているからです。でも最も大きな理由は他にあります」
彼女が振り返ると、薄いガラス板がチカと光る。
「私が貴方を監視できるからですよ。ハイヤさんの言うとおり私は貴方を信用していません。ならば私自ら貴方の調査を行うべきと判断しました。私ならば何かあれば直ぐに団長に報告ができます」
危険な人物なら、放置せずに目の届くところに置いていた方が都合の良いってことね。
「此処での貴方の役職は臨時保健医になります。またと第三魔法科の副担任を兼任、勤務は通常週に三日です」
保健医で第三魔法科の副担任か……。
多分だがこれもバンズさんの根回しだろう。第三魔法科はミルシェが在籍しているクラスだし、副担任ならばそこに出入りしても変ではない。
それに臨時保健医はなるほどと思う。
俺には授業を行える教養や資格は無いが治療スキルがある。『
正式な先生では無い分、むしろ動きやすそうだ。
それにしたって、俺が保健の先生か……怪我をしたうら若き乙女を俺が治療したりするのだろうか?
・
『んんっ、ハイヤせんせぇ……苦しいようぅ……』
『それは大変だ! いったい何処が苦しいんだ!?』
『むね、むねがくるしいのぉ……』
『な、なんだって!? 一大事じゃないか!! 早く治療を開始しないと……! とりあえずベッドに横になり服を脱いでくれ! 少しでも呼吸を楽にするんだ!』
『ぅぅうん、苦しくて動けないよぉ……せんせぇが脱がせてぇ……』
『なにぃ!? よしきた!』
『ぁあ……ハイヤせんせぇ、はいやせんせぇ……』
・
「……ヤさん、ハイヤさん、聴いてますか? 何ですかそのふざけ顔は。もう報告されたいのですか?」
「ハッ!?」
「そんな様子で本当に大丈夫なのですか? 全く、ブルファルトも何故このような男を……」
いかん俺一人の汚名ならまだ良いが、俺が下手すればバンズさんの迷惑にもなってしまう。気をつけないと……。
「ともかく、校舎を案内します。まずは貴方が大半を過ごすであろう第三保健室から……」
キビキビとレスティアは歩き出した。道行く生徒達の幾人もが彼女の視線を投げ掛けている。
知的な印象を他に与える美人で更にスタイルの良い彼女は、男子学生注目の的だろう。明らかに胸を見ている輩もいる。
巨乳女教師という五字熟語が男子にとって魅惑的なのは、どの世界でも同じらしい。
レスティアの機嫌良くなったような気配がするのは気のせいだろうか?
いや何も思うまい。やぶ蛇になりかねん。
やがて中庭の中央に差し掛かった頃、
「ムネヒトさん!」
聞き慣れた声がする。
顔を向けると予想通りの少女が居た。ミルシェだ。
手を上げて答えると彼女は微笑み、こちらへスキップするように駆け寄ってきた。
うっひょっ! スッゴい揺れたで今!
「えっえっ? ムネヒトさん、どうしてここに!? お仕事は!? 今日はアカデミーに配達でしたっけ!?」
矢継ぎ早に訊いてくるミルシェ。そういえば俺もバンズさんも言ってなかったなと思い出す。
どこから話せば良いか……とりあえず、出来る限り単純に……、
「ああ、実は――……!?」
ゾッと、背に氷柱が刺さったかのような感覚に襲われる。
なんだこりゃ、敵か!? もう現れやがったのか!?
咄嗟に『不壊乳膜』を全開にし、襲撃に備えながら殺気の出所を探る。
それは直ぐに発見できた。ミルシェの斜め後ろに亜麻色の髪をした小柄な女生徒がいる。その双眸が放つ青い光は凝縮された敵意だ。
どなた? ミルシェの友達? めっちゃ睨んで……いや睨んで無い? どっちだ? 無表情だから判断出来ないけど……少なくとも友好的では無いよな……。
――――見つけた。
彼女は何も言わなかったが、確かにそう聞こえた。
【???】
トップ 73㎝(A)
アンダー 63㎝
サイズ 2.2㎝
16年8ヶ月14日物
俺は恐怖を『
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