第六一話 第ニの能力
(俺様の能力が不発したっていうんじゃねぇだろうな! そんな事はありえねぇ! しかし、あの野郎は俺の手を掴みやがった。信じられねぇ……くそったれが!)
「あ、あんた体は……大丈夫なの?」
「死んじゃったかもって思ってたんだよ!」
とホムンクルスの少女は言葉を付け足した。
風成は赤眼、白色の髪色と変化し、前髪が下がっているせいで何時もより大人びているように見えた。彼は二人の横を通り過ぎながら口を開く。
「大丈夫だって、ほら見ろよ。骨がぶらぶらしてる」
再生途中の右腕を揺らしながら二人に見せると
「うわっ、グロ! そんなもの見せんな」
「再生能力なのかな?」
「あんたもよく、冷静に分析できるわよね」
「だって、不思議なんだも」
風成は二人のやり取りを見て「はは」と笑い、
「んじゃ、戦いの続きしてくる」
「ちょっと待って!」
啓子は引き留めようとするが風成は彼女が欲してるであろう言葉に察しが付いた。
「終わらしてくるよ。なるべく早くな、だから皆で帰ろう」
「うん」
啓子は泣きそうな声で答え、風成は龍牙の前に立ち塞がった。
「二階堂、二ラウンド目の準備は出来たか?」
「なに調子乗ってやがる死にぞこないが!」
「死にぞこないに見えるか?」
風成の負傷した部位の骨、神経、筋肉等人体内部の再生は完了しており、皮膚が徐々に再生している途中であった。
「化け物が」
「お互い様だろ」
「いいだろ、上等じゃあねぇか、またバラバラにしてやら!」
龍牙は地面を踏みつけると斥力で風成の目の前まで飛んだつもりだったが彼はすでにその場におらず、
「ぐぶあっ!」
気付くと右側頭部を殴られ吹っ飛んだ。
(こんな事が、こんな事があってたまるかぁぁぁぁボケがぁぁあ!)
龍牙は後方に両手のひらを向けると斥力を生じさせて吹っ飛んでいる体を静止させて地面に着地する。
「十月! ふうせええええええええい!」
跳躍して後方の空中を蹴って斥力で移動し、突き出した両手で風成に触れようとする。彼は両手を使って相手の体を四散させようとしたのである。しかし、
「なっ! 冗談じゃねぇぞ!」
「もうお前は俺には勝てない、天地はひっくりかえっちまったんだよ」
突き出した両手は掴まれ、両者は押し合う形になっていた。
「ほざいてんじゃねぇぞ! ボケが! なんで俺様の能力が効かねぇんだ!」
「俺もわかんねえ」
「ふざけてんじゃねぇぞ!」
「いや、マジ話なんだよ。ただ本能的っていうのかな? なんとなく、こうすると良いって事が分かんだよ」
「なにを訳分かんねぇ事を――」
龍牙は次第に風成に押されていき、
「おっっっらぁ!」
風成は龍牙の両手を掴んだまま、自身の腰の後ろまで引っ張り寄せ、勢いをつけて前方へと振り投げた。
「がはっ! ぐっ」
龍牙は振り投げられて地面を転がっていった。そして、両手をついて立ち上がろうとする。
(さっきまであの野郎は、俺様に手も足も出なかったはずだ。なのに、なんだ、このザマは、俺様が子供扱い……されてやがる)
少し距離を空けて対峙する二人。龍牙は両手を突き出して手の間に黒い霧を生成させ、上に掲げた後、風成に放つ。
「くたばれ! 【
【暗黒流体星雲】は風成に向かっていった。風成は右拳を握って前に出すと、拳の周囲が白く発光し、白い稲妻を散らしていた。電気を生成する能力者であるホムンクルスの少女は激しい電子運動が行われていると感じ取る事が出来ていた。
「嘘、なんでお兄ちゃん二つも」
「……えっ、二つってどういう事よ」
啓子は風成が龍牙を圧倒している姿に呆気を取られていたが少女の言葉ではっと我に返っていた。
「あの白いのは多分、ぷらずま」
「プラズマ? なんであいつが……能力が二つあるって事⁉」
「でも能力を二つ持っているなんてあり得ない事なんだよ。脳がパンクするからね」
と喋っているうちに風成はプラズマで包んだ右拳で龍牙が放った【暗黒流体星雲】を横に払うようにかき消した。その様子を見た少女は啓子に説明するように言った。
「あの人は負の質量を持つ粒子で斥力を起こしているけど、お兄ちゃんが発するぷらずまの中じゃ粒子は不安定になるから能力は無効される……って事かな?」
「なるほどね……なんとなく分かるわよ、プラズマの中の電子とか原子核の動きが激しいせいよね」
プラズマの中は分子が解離して原子に、更に原子から電子が離れて原子核と電子が激しく熱運動している状態になっている。龍牙が生成する粒子がプラズマ中に混在すれば激しい熱運動に巻き込まれて粒子の存在が不安定になると啓子と少女は踏んでいる。それも龍牙の能力が効かない理由の一つではあるが、根本的にはもっと単純な理由がある。単純にプラズマの莫大なエネルギーに当てられた粒子が破壊されたのであった。彼女らは物事を少し難しく考える節があるので単純な結論には至らなかったのである。
そして、攻撃を簡単に弾かれた龍牙は悔しがって「クソカスボケがぁぁぁ!」と言って地面を両拳を叩きつけていた。
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