第六〇話 モード・セカンドフェイズ

 本条ほんじょう啓子けいこは小規模遊園地『ロイヤルガーデン』に近づいていた。彼女は十月とおつき風成ふうせいとホムンクルスの少女を姿を確認する。


(良かった。まだ二人とも無事みたい――――)


 と思った矢先、目を大きく見開く。信じたくない光景を目にしていた。風成の右腕が二階堂にかいどう龍牙りゅうがによって四散し吹き飛ばされていたのだ。そして、風成はとめどなく血を流し、仰向けに倒れた。


「いや……嘘」


 啓子は思わず足を止めてしまった。


 少女は倒れている風成を龍牙から引き離す為に両手を使って一生懸命引きずっていた。しかし、ゆっくりと近づいてくる龍牙に追いつかれるのは目に見えていた。


「やめてよ……っ、やめろおおおおおお!」


 啓子は叫ぶと同時に駆け出し、龍牙は「ああ?」と声を出す。赤塚あかづか音流ねるとの戦闘で能力を多用した為、限界が来ていたがお構いなしに能力を行使する。彼女は足裏から炎を噴射させ跳躍したのであった。


「【炎脚波えんきゃくは】‼」

「お前は!」


 啓子は空中で炎で包んだ右足で横蹴りをすると右足を包んでた炎が筒状に噴射し、龍牙に向かった。


「本条……啓子だな」


 龍牙は啓子を見据え、一歩も動かなかった。それは当然であった。何故なら自身の体に負の質量をもつ粒子を散布させる事で炎が直撃した時、斥力が生じて炎を防ぐ事が出来るからである。案の所、炎は弾き返され四散する。


 啓子は風成と少女の元に着地した。


「お姉ちゃ――」


 と少女が喋り終わる前に啓子は少女を抱き寄せる。


「ごめんね……」

「なんで、お姉ちゃんが謝るの……わたしのせいでお兄ちゃんが……」

「悪いのはあんたじゃないわ。あんたを利用する奴らと傷つける奴が悪いのよ」


 啓子はしゃがんで風成の頬に触れるが彼は目を瞑り動かない。彼の途切れた右腕から流れる血を見ていると沸々と目の前の敵が憎くなってき、彼女は風成を背にして龍牙と向き合った。


「にかいどおおおおおお‼」


 手のひらから大きな円状の火柱を放つ技――【大火円だいかえん】を行使するが能力が底を尽きていた為、手のひらから火花が大きく散っただけであった。


「なっ……」

「おいおいおい。なんだそりゃ、線香花火でも見せに来たのか? ああ?」


と嘲るように言ったを龍牙を啓子は睨みつける。


(こうなったら……能力の限界を超えるしかないけど……そんな事したぐらいじゃ、こいつに私の攻撃は届かない!)


 能力を行使出来る許容範囲、規模を超えて強制的に限界を突破する力技である【限界突破リミッターオーバー】を行使しようと思案した啓子だったが、


「お前、【限界突破リミッターオーバー】をしようとしているだろ? なぁ? 浅はかなんだよ。大体、神戸特区の人間の癖に良くそんな真似が出来るよな?」

「どういう事よ!」

「知らないとでも思うか? お前らの所長の件、かつて最強の一角だったくすのき瞬也しゅんやが『死都ネクロポリス』を壊滅状態に追い込んだ時、【限界突破リミッターオーバー】をしすぎた反動で全盛期の半分まで力が減った事をよお!」

「黙れ! この先どうなろうが、もうどうでもいい」


 啓子は能力の限界を越えようとした。火の粉を体から撒き散らし、自身を中心に近くにいる風成と少女ごと荒れ狂う炎で囲んだ。しかし、


「雑魚が! 無駄なんだよ!」


 龍牙は飛び出し、荒れ狂う炎に触れると炎は後方に吹き飛ぶように消える。啓子はどうしようもない現実を目の前にして膝をつきそうになった時、少女が啓子の手を掴む。


「お姉ちゃん、逃げて!」

「嫌よ!」

「どうしてそこまでしてくれるの、わたし、造られた人間なんだよ。会ったばっかりだし、それに本当の妹じゃないのに……」

「それでも、あんたは私の妹よ」


 啓子は再び、少女を抱き寄せた。


「血は繋がっていないけど、生まれ育った環境も違うけど、あんたを見殺しには出来ない。それに、この世界は酷い事ばかりじゃないって教えたい。あんたは一人しかいないたった一人の大切な妹よ!」

「おいおい、家族ごっこは終わりか?」


 啓子は少女を抱き寄せまま、目の前にいる龍牙と向き合う。


「俺様は俺様より強い力を許せねぇんだよ。俺様より強くなるかもしれない存在を片っ端から潰してやる、そのホムンクルスもお前もな」

「そんな、くだらない事の為に! こいつを! この人を殺したっていうの!」

「ああ、そうだ。十月風成は危険だ。なんせ俺様に初めて傷を付けた野郎だ」

「あんたの目的はなに……とてもじゃないけど赤塚達と一緒だとは思えないわ」

「ヒャハハハ! 表の世界の愚民共との共存共栄するのが目的ってやつだろ。残念ながら一緒なんだよな。ただ違う点は俺様は強い能力者を片っ端からぶっ潰してこの世の頂点に君臨するって事だ」

「ほんと、くだらない!」

「そのくだらない奴にお前は殺されるんだ! さっさっとくたばりやがれ!」


 龍牙は片手を伸ばす。手を払って啓子と少女の体を吹っ飛ばす気だった。抱き合っている啓子と少女は目を瞑った。


 しかし、啓子達は無事だった。


「……?」


 啓子は目を開くと、龍牙は「ぁ……あ、な、なんでだ」と狼狽えていた。龍牙の伸ばした手は啓子の背後から伸びる白い何かで防がれていた。


「な、なにこれ……」


 啓子は白い何かを認識した。それは人骨だった。手骨しゅこつが龍牙の片手を防いだのである。啓子はまさかと思い、後方を見る。そこには風成が居た。弾け飛んだはずの右腕からは骨が生え、筋肉、神経が徐々に再生しているのが分かった。貫かれた部位も徐々に再生していた。そんな風成の姿を見た少女は、


「おにい……ちゃん?」


 と疑問を持って呟いた。それもそのはず、風貌が違っていたからである。瞳は赤く、かき上げられた前髪は前に倒れ、髪色は白くなっていった。


 龍牙は後退る。


「なんなんだ、お前は……一体何者なんだ!」

「さぁな……俺が知りたいぐらいだ」


 と言って風成は両手を啓子と少女の頭に乗せるように触れた。安心させるように触れたのであった。風貌が変わり、前髪がおろしている風成は麗しいと思わせるほどだった。普段とは真逆の雰囲気に啓子は戸惑っていたが触れられた手からは優しさが感じられ、戸惑いはいつしかなくなっていた。

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