第五七話 負の質量
「ヒャハハハ! 喜べ愚民! ここまで耐えぬた褒美に俺様の技で破壊してやらぁ!」
「なんだあれ」
(あれが、あいつの能力の正体……生成系能力者か! なんで今まで見えなかったんだ)
黒い靄は次第に色濃くなっていき濃い霧程度になる。
「【
龍牙は黒い霧を両手で挟むように持つと上に掲げてから振り下ろした。【暗黒流体星雲】は風成目掛けて放たれたのである。放たれた【暗黒流体星雲】は周囲の空気、地面、遊園地の遊具を弾き飛ばしながら進んでいた。
「くっっそ!」
風成は背を向け走り出した。彼は背を向ける事しか出来ない自分自身が腹立たしくもあり、悔しくもあった。
走っていると前方にメリーゴーランドとお化け屋敷等のアトラクションが現れる。
(あの子はどこだ)
ホムンクルスの少女を目で探す。少女はメリーゴーランドの中で身を潜めており、顔の上半分だけ馬を模した座席から覗かせていた。
風成は少女を見つけると、跳躍してメリーゴーランドの中に入る。
「手を掴め! 直感だけどあの黒いのから遠くに逃げないとやばい!」
「うん!」
風成は少女の手を取ると、すぐに跳躍しメリーゴーランドから飛び出す。そして、地面に着地した時だった、
「破壊!」
龍牙が両手を広げる、すると【暗黒流体星雲】は膨張し破裂すると破壊的威力で周囲の物を吹き飛ばす。
「うわあああああ!」
「きゃあああああっ!」
風成と少女は吹き飛び、飛んできたメリーゴーランドの屋根の一部が覆い被さる。
メリーゴーランド、お化け屋敷は見るも無残な姿になり、離れた所にあるミニコースターすら吹き飛んでいた。破裂した場所を中心として、空気が勢いよく分散する。
「お兄ちゃん! 血がっ!」
風成は少女を守る為、飛んできた屋根の一部を両手と額で受け止めていた。彼の額からは血が垂れていた。
「大丈夫だから気にすんな」
「あの黒いの出すとき、あの人、だーくふるいどねびゅらって言ってたよね」
「それがどうかしたのか」
「なんとなく、あの人の能力分かるかも……お兄ちゃんは気づいたことある?」
「本当か! そういえば、もっと『量』を増やすだの言ってたような、その後、あいつが飛ばしてきた地面のスピードが上がったような……」
「なるほどね……わたしの予想、聞きたい?」
受け止めていた屋根の一部を横に降ろし、少女に「言ってくれ」と言った。
「気付いていると思うけど。黒い塊が現れた事で生成系能力者なのは分かるでしょ。でも物を飛ばしたり、パンチとかキックとかが速くなった時には見えなかったと思うの」
「そこは俺も気になっていた」
「多分、生成しているものが粒子レベルで小さいはず。『量』って言ったのは生成している粒子相当のものの量を増やす事だと思うの、だから物体が飛んでくる速さが上がった。そう考えると、だーくふるいどねびゅらって言った時に黒いのが見えたのは視認できるレベルで粒子相当のものが増えたって事になるの!」
「急にかしこっ! 頭良すぎでは!」
「お兄ちゃん、説明はこれからだよ。あの人がなんで色んな物を飛ばせるかが分かってないよ」
「確かに……これが、天才か。一生着いていきます!」
風成は少しふざけた後に、
「えっと、どこまではなしたかな……あ、そうだ。物を飛ばしてる作用の原理については、正直、自信はないけど、言うね。だーくふるいどねびゅらのだーくふるいどを直訳したら暗黒流体になるの。宇宙の九割以上はだーくまたーとだーくえねるぎーで出来ていると言われてるでしょ、それの正体が暗黒流体かもしれないといわれてるの」
「あーなるほどねー、そーいうことね」
「何が分かったのか分からないけど、まだ説明の途中だよ。暗黒流体は負の質量をもっていると思われてて、その負の質量は正の質量と反発するの。あの人のだーくふるいどって言った言葉をそのまま捉えると、負の質量をもつ粒子相当のものを生成しているってことになるね」
「負の質量……それがあいつの能力の正体か――」
その時、足音が近づく。砕け散ったメリーゴーランドの残骸を超えて龍牙が現われた。
「さぁすがは! 能力開発部の雑魚共が作ったホムンクルスだな! 無駄な知識を学習させられてんな、俺様に感謝しろよ、技の名前のおかげで分かったんだろ」
風成は少女を背に構えた。
「おいおい、抵抗しなくても破壊してやるから安心しろっての」
「よく喋る奴だな、寂しがり屋かな?」
「俺様に勝てると思ってんのか?」
「……っ」
「へっ、ヒャハハハ! だろうな! 何も言えねぇよな」
風成は相手の能力の正体が分かれば、もしかしたら突破口が開けるかもしれないという淡い考えが消え去っていた。どう考えても負の質量を持つ粒子に対抗できる戦法、戦術を思いつかないからである。
(俺以上に早く動けるこいつから逃げ出せるとは思えない。死ぬまで足掻くか)
絶望の中、気丈を保って死の瞬間まで抵抗する。そう決意したというより、ただそれだけしか出来ない状況だった。
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