第五六話 打つ手なし

 十月とおつき風成ふうせい二階堂にかいどう龍牙りゅうがの攻撃を見切る為に距離をとると背中が何かとぶつかる。


「あうっ」


 その何かは声を漏らした。


 風成が後ろを振り向くと、パンダカーに乗っているホムンクルスの少女が居た。


「なっ、まだ。こんな近くに居たのか!」

「逃げようとしたけど、だって……お兄ちゃん、ボッコボッコにされてたから」

「うっ……そういう日もある! 大体、なに呑気にパンダ乗ってんだ」


 風成は痛い所を突かれたので強がっていた。その時、苛立った龍牙の声が耳に届く。


「余裕こいてんじゃねぇぞ!」


 龍牙は一歩踏み出した瞬間、風成達の方に加速しながら飛んで行った。彼は平手で風成に触れて人体を破壊しようとしているのである。


「なっ、なんで身体能力も上がってんだよ、っと!」


 風成は目前まで迫ってきている龍牙に対して回避行動を取った。風成は少女に飛びつくと、パンダカーから少女を引き離して一緒に地面を転がり、間一髪、龍牙の平手を避けたのであった。


「大丈夫か!」

「うん」


 風成は少女の安否を確認し、龍牙と向かい合った。


(斥力で移動してきたのか? 物をぶっぱしてくるだけでやっかいなのに)


 少女はいきなり風成の右手を両手で握った。


「どうした?」

「これ受け取って、長くは持たないから気を付けて!」

「ん? え?……とりあえず、今は危ないから下がってくれ」

「うん」


 少女は風成から離れる。一方、風成は不思議な顔していた。握られた手には何も無かったからである。


「? 空気をあげるっていうギャグかな?」

「なに訳分かんねぇ事言ってんだ、ボケが!」


 龍牙は左足に体重を掛けてしゃがむと、勢いよく飛び出して右足で風成に飛び膝蹴りを仕掛けた。


「やばいっ!」


 風成は近距離から龍牙が加速しながら向かってきた為、避けられないと思っていた。しかし、


「ああん?」


 龍牙は風成が予想より速く動いて飛び膝蹴りを避けたので疑問に思った。それは風成も一緒だった。彼はしゃがんで龍牙の攻撃を避けたのである。


「ほんと、あぶねぇ」


 風成は、飛び膝蹴りを避けた後に攻撃したかったが触れたら斥力で体の一部が吹き飛ぶと思っていた為、横に飛んで後退りしながら距離を取る。しそして彼は体中に電気が流れるのを感じていた。


(これって……あの子の能力か! そのおかげで多少、速くなったんだ!)


 少女が手を握ってきた時に能力を行使されて身体能力が向上していたのを理解した。これは風成の直感であり原理的な事は分かっていなかった。


 少女は風成の手を握った時、風成の脳に電気で刺激を与え一時的に活性化させたのである。活性化した脳により、末梢神経への情報伝達速度が格段に上がっていた。もっとも、今、少女が発現できる電気量では他者の脳に刺激を与えれないのでパンダカーに触れて電気を奪っていたのである。しかし、


「ほらほらほら! 雑魚が!」

「く!」

「どうしたどうしたんだ! 逃げてるだけじゃ天地はひっくり返せねぇぞ! おい!」


 風成は龍牙の奇妙な攻撃を顔逸らして避け続けていた。客観的にみると龍牙は両拳を繰り出し続けているように見えていた。実際には大きく肘を引いてから拳を一回一回放っていたのである。肘を引いた瞬間、肘が何もない空間に押し出されて加速していた。


(駄目だ! 今でも避けるので精一杯だ! こいつの殴り方には意味があるはずだ、能力を行使する為にわざわざおかしな殴り方を――――)


 思案しながら龍牙の攻撃を避け続けるが、自身の回避速度が落ちて行くのを感じた。


「もう限界がっ!」


 風成は後方に大きく跳躍した。


「はぁっ、はぁっ」

「空気が足りてねぇようだな! ああ?」


 風成は限界を超えた速度で動き続けた為、息を切らしいた。


(ほんと打つ手がない! でも、あいつの能力の原理を暴けば何か反撃の手が見つかるかもしれない……!)


 風成は、心の中で自分に言い聞かせている状態だった。能力の原理が分かった所で徒労に終わる可能性がある事も考慮していたのであった。

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