第五五話 運命の決戦『風成vs龍牙』
(おかしな構え方しやがって)
龍牙は両手の指の先を地面にぬめりとめり込ませる。
「⁉」
風成は驚いた。龍牙の能力は斥力を生じさせてあらゆる物質を反発させると聞いていたが、地面に指をめり込ませるという行為は、反発というより押しのけているように見えたからである。
(物を吹っ飛ばすだけじゃなくて、ああやって物を押しのける事も出来るのか)
風成は身構える。龍牙が地面に手を突っ込んだ意図が大方、分かったからである。
「脳汁ぶちまけて散りやがれ!」
龍牙は物騒な発言と共にめり込ませた指から能力を行使し、地面を風成に向けて放り投げた。地面は二平方メートル程くり抜かれ、加速しながら風成に向かっていった。
「速い! けど、いける!」
風成は右手で体の内側から外側に裏拳を放って、くり抜かれた地面を砕く。
龍牙は、ぼやく。
「ああ? どんな雑魚かと思えば脳筋能力者の雑魚かよ」
「【
風成は直ぐに右手を引いてから、全体重をかけて空中に拳を放つと空気砲が龍牙に向かっていった。龍牙は風成が何かをしてきたのに気付いたが動かなかった。
「避けないつもりか⁉」
「低能か? お前は」
「⁉ あがっ!」
空気砲は龍牙の体に到達した瞬間、風成に跳ね返った。風成は自身の放った攻撃でダメージを受け、風成は尻餅をついた。
(手以外の部分からも斥力ぶっぱ出来んのか。それにあいつの体に触れたらアウト……攻撃する手段がない!)
風成は立ち上がるが攻撃を仕掛けようにも仕掛けられない状態だった。
「ほらほら! どうした! さっきまでの威勢はよ!」
龍牙は地面を蹴ると足のつま先が地面にぬめりとめり込み、そのまま足が振り上げられると再び地面がくり抜かれて風成に向かう。
「さっきより速い!」
くり抜かれた地面は、より加速度を増して風成に向かったのである。風成は右足の中段回し蹴りでくり抜かれた地面を割るが。
「ほらほらほら! ヒャハハハ!」
龍牙を次々と地面を蹴飛ばしていた。
「また速くなってやがる!」
風成は一歩踏み出して右手のラリアットで、くり抜かれた地面を割った。次にラリアットした腕をそのまま振り抜いてから裏拳を放ち、更に左拳を真っ直ぐ放って、二つ三つとくり抜かれた地面を破壊する。
風成は防戦一方だった。
「キリがないっ!」
「愚民の癖に中々耐えやがるな、もっと
「量……だと」
風成は『量』という言葉の意味は蹴り飛ばす地面の数を増やす事だと思った。しかし、龍牙は新たに地面を一回蹴飛ばしただけであった。
「なっ!」
今までの比にならない速さでくり抜かれた地面は風成に向かった。彼は肉体強化の能力に目覚めてから動体視力で追えないものは無かった。訓練でレイ・ヴィスタンスの攻撃に追いつけなくて負ける事があったが目で追えないほどでは無い。今、能力に目覚めてから初めて、動体視力で追えない事象が起こったのである。
風成は両腕を自身の体の前で交差させて防御するので精一杯だった。
「ぐああ!」
風成はくり抜かれた地面と衝突した。彼は体が後方に浮くと、地面に体を打つ。
(さっさと起き上がらねぇと!)
風成は攻撃を恐れ、両足を上にあげ、腰を曲げて跳ね起きると、前方に居る龍牙は右拳を握って前に突き出していた。
風成は言う。
「なんだよそれ、かっこつけてんのか?」
「ああん? 俺様が本当の空気の使い方を教えてやろうってんだ。受け取りやがれ雑魚野郎が!」
龍牙は握った拳を弾くように開くと、弾かれた指から空気が反発し風成に向かった。
「ぐうあ!」
龍牙が放った空気砲は当然、不可視で、見えたとしても風成の動体視力で追える速さではなかった。風成は顔面に空気砲を受け、体が仰け反って倒れそうになるも踏みとどまる。しかし、風成の視界は揺れていた。
(俺とは比べものにならない威力だ)
風成は今の距離では龍牙の攻撃が捌ききれないので後方に跳躍する。そんな風成を見た龍牙は、
「残念なお知らせをしてやろうか、俺様の攻撃はまだ速くなっちまうから、離れていても意味ねぇんだよ」
と言った。
風成は龍牙に聞こえない程度の声で呟く。
「強い……正直、手も足も出せねえ」
彼は最高能力者と呼ばれている龍牙の実力を体感すると同時に龍牙の能力について考察していた。
(斥力……物質を反発させる……その割にはぬるっと地面に体が入り込んでたし、そもそも反発してきたもんが速くなってる意味も分かんね……駄目だ、頭が回らない)
風成は昨日の夕方、
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