第五二話 空中道中

「もうちょっとスピード出せない?」


 いつのまにか刀を【収納術式】に収めていた十月とおつき風成ふうせい赤塚あかづか音流ねるに言った。


「重すぎだからさ。こんな人数、上手く運べないわよ」

「本条、お前、重いって言われてるぞ」

「はいはい」


 本条ほんじょう啓子けいこは風成を適当にあしらう。彼女は疲れから冗談に付き合う余裕はなかった。


 風成の提案により、彼らは音流の能力で空中を浮いて島の船着き場まで移動していた。音流は他者を自身の能力下に置く為に、右手は風成の左手と、左手は啓子の右手と繋いでいるという奇妙な状況になっていた。その上、風成は先程まで戦っていた、意識不明のかなで義安ぎあんを背負っていた。


 音流は風力を継続的に生み出して空中で移動する事ができるが空中に浮かす人数が多ければ多いほど、より強い能力が必要である。今の音流は能力を行使出来る力はほとんど残っていない為、この飛行を終えたら力尽きるのは確実であった。


 啓子は見上げて音流を見る。


「なんで協力してくれたの?」

「飛ぶ前、その子が耳元で東京本部で裁かれる時に私に有利な発言してくれるって言ってたから」

「えっ」


 啓子は風成を怪訝な目で見たので風成は反応する。


「どうした?」

「最低」

「いやいや、冷静に考えてみろよ。新入りの俺が口添えしたところで何も変わらないと思うけど」

「確かに……私、騙されたって事?」


 音流は啓子に茶化すように言い始める。


「考えが足りなさ過ぎ」

「は? あんたが言ったんでしょうが」

「なんでそんな直ぐ怒るのかしら、カルシウム不足?」

「なにそれ、私に負けたからって必死に粗を探してるようにしか見えないわよ」

「勝手に勝つな、決着ついてないし」

「ちなみに俺が口添えするって言ったのは本当だぞ」


 と風成が口を挟むと啓子は改めて「ほんと最低」と罵倒した。


 音流は遠い目をした後、口を開く。


「正直な所、二階堂を頼った時点で私達は終わりってとこかしら。あいつが素直に開発能力部の言う事を聞くはずがない。助けを求めた瞬間、瞬殺されてるって所がオチかしら」

「そうよね……」


 啓子は同意し、風成は意見を述べる。


「滅茶苦茶な奴だな」

「あんたも大概よ」

「そういえば、俺の事、あんたとしか言わないな。名前で呼んだ事あったっけ」

「あ、ああるわよ! 当たり前だし!」

「なんで、ねるねるの口癖が移ってんだよ。焦りすぎだろ」

「はいこの話終わり!」


 啓子は『なぜか、あんたの名前を呼ぼうとすると恥ずかしくなるのよ』と言える訳が無かった。恥ずかしさで死ぬと思っていた。


 そうこうしているうちに、林の上空を抜け、船着き場が見える。


 突如、音流は力尽きる。


「あ、だめこれ」


 音流は二人の手を離し、全員、船着き場に向かって落下していった。


「きゃああああ! ちょっと! もうちょっと耐えてえええええ!」

「ああああああ! こっち人を一人背負ってるからやばいってええええ!」

「ほんと、ごめん」


 音流は素直に謝ったので、もう駄目だと悟り啓子は合掌して手を組む。


「来世で皆とまた会えますように」

「おおおお、おい! 重いって! 本条が言うと特に重いから!」


 と言った風成は「こんな所で死なすか」と言葉を付け足す。


 風成は義安を背負ったまま、音流の腕を掴み引き寄せる。


「ひゃ」


 と声を漏らした音流は風成の右手の腕でお腹を抱えられてた。


「本条、手を伸ばせ!」

「これでいい?」

「ああ」


 風成は空いている左手で啓子の腕を掴んで引き寄せ、左手の腕で啓子のお腹を抱えると彼女は「きゃっ」と声を漏らした。


(後はどう着地するかだ、これからやばい奴と戦うのに怪我なんてしてられないぞ)


 と風成は思っていた。  

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