第四九話 風の槍

 本条ほんじょう啓子けいこ赤塚あかづか音流ねるはお互いを見据える。


 啓子は右手の甲に左手のひらを重ねて音流に右手のひらを向けた。対して音流は両腕を上げて、両手のひらを広げると自身の上空で風力を生じさせた。


「【大火円だいかえん】‼」

「【風の槍】‼」


 二人は同時に能力を発動する。


 啓子は手のひらから直径二メートルの円状の火柱を放ち、音流は上げた手を下ろして啓子に向けると、上空の風力の塊が槍状になり風の槍を形成する。そして、空気を引き裂ながら啓子に向かっていった。また、風の槍は周囲に風力を生じさせながら啓子に向かった為、通った道の窓ガラスは割れていった。


「なっ!」


 啓子は驚く、自身が放っている火柱は音流が放った風の槍と衝突すると、風の槍は火柱を引き裂きながら啓子の方に向かっていった。引き裂かれた火柱は二つに分かれて連絡通路の左右を燃やす。


「槍の先の面積が小さい分、単位面積当たりの威力が強くなったって感じかっ」


 啓子は火柱を放つのやめて後方に跳躍し、風の槍の性質について分析した。


「そのまま貫かれなさい」

「そう簡単にやられないわ、【紅蓮拳ぐれんけん】」

「あの炎の動き、普通じゃないわね」


 啓子の右拳に激しく燃え盛る炎が渦巻いて包まれる。そして拳を包んだ炎は常に螺旋状に動いていた。


「おっっらぁ! ぶち壊れろ!」

 

 啓子は屈みながら風の槍に向かって右拳を放った。


風の槍は螺旋の炎に飲み込まれ、四散する。風の槍は四散した事で周囲の床、壁に傷痕を付けた。


 啓子は右手を何度も握りしめ、自身の状態を確認する。この技はいわば【火炎拳かえんけん】の上位互換、拳を炎で包ませるだけではなく常に螺旋状に動くのが特徴である。


 啓子は十月とおつき風成ふうせいのように戦闘狂ではない。戦闘が強いられる状況なら戦うといったスタンスを取っている。しかし、彼女はこの一〇日程、風成がトレーニングルームで能力の修行をし、自室でも鍛錬を積み重ねているのを知っている。そんな風成の様子を見て彼に実力差をつけられたくないといった理由で【紅蓮拳ぐれんけん】という技を編み出したのである。もっとも今は右拳でしか放つ事が出来ない。


「やっぱりこの技、コントロールが難しい」

「そんなっ……このままじゃ駄目過ぎるし」


 音流は自信をもって放った技が打ち消され、恐れおののいた。


「ここじゃ駄目……大気中で……だったら……地の利で」

「?」


 音流は独りで小さく呟く。啓子には音流の声がほとんど聞こえなかった為、何を言っているのか気になったが、一気に攻撃を畳みかけようとした。


「行くわよ」

「もう来させないわ! はあああああああああーーーー!」

「‼」


 音流を中心として暴風が吹き荒れる。連絡通路の窓ガラスは暴風により全て割られ、今にも連絡通路を崩落させる勢いで傷痕を付け続ける。


 啓子は両腕を顔の前で横に構え、音流を見据えた。


(なにをする気なの⁉ あきらかに能力をコントロール出来ていない。まさか……意図的に能力を暴発させている⁉)


 その時、啓子は突如、浮遊感に襲われる。


「なっ! なっなによこれ!」


 音流の生成した暴風により、連絡通路がダメージを受け続けた結果、啓子の居た部分の通路が崩落して空中から地面に落下しようとしてた。啓子は地面に体を打つ前に、飛び降りて、足裏から炎を噴射させて着地の衝撃を和らげた。


 啓子は上空を見ると音流が上空六メートル程の高さで浮いていた。


「ちょっと、それはずるいわよ!」

「これだからさ、お子様は……正々堂々馬鹿みたいに戦って負けたら意味ないから」

「誰がお子様だごらぁ‼」

「あー怖い怖い」

「こんっの、ババア!」

「なっ、私はまだ一五なんだけどさ!」

「でもー年上には変わりないですしーー、動きも鈍くて、ちょっと骨の節々痛めてる年齢かと思いましたーー」


 啓子はわざとらしく敬語を使った。もちろん、音流は啓子の態度に苛ついた。というか、かなりうざいと感じていた。


「いっ、言ってくれるわね、お子様が」

「……ノロマ」

「……あなたもうちょっと食べたらどう? 発育が足りてなくて見てられないし」

「あ?」

「は?」

「大体、私まだ、今年で一三歳の一二よ! 中学生になったばかり! まだまだこれから、環境次第、それに家族は皆、スタイル良かったわよ! むしろ将来有望! 舐めんなああ!」

「必死すぎ」


音流は会話にひと段落ついた所で先程と同様、両腕をあげて、両手のひらの上で風力を生じさせた。


「これから、あなたは私に一方的に蹂躙じゅうりんされる」

「……!」


 音流は風力の塊から風の槍を形成させると自身の周りに浮かせ、再び両手のひらのうえで二本目の風の槍を形成させた。


「させないわよ」


 啓子は右手のひらを突き出そうとするが音流は口を開く。


「無駄よ、空中を移動できる私には当たらないし」

「そんなのやってみないと分からないわよ」

「強い風力を発生させれば、その分速く動けるわ。それにあなたの攻撃は直線的、広い空で自由に動ける私からすれば容易くかわせるし」

「能力を消耗するだけって言いたいようね」

「その通り」


 音流は喋りながら、六本目の風の槍を生成してた。


 啓子は焦る。


(まずい、あの槍を打ち消せる【紅蓮拳】はそう連発出来ない……でも、あれだけの槍を生成するのにかなり能力を消耗するはずよ。ここを乗り越えたら勝ちが見えるはず)


 啓子は覚悟を決めて、音流の攻撃を待つ。

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