第五〇話 反撃への布石
上空に浮いている
「降参するならさ、攻撃をやめてあげる」
「ふっざけんな」
「そう、じゃあ、さよなら……【風の
「っ」
音流は上にあげている両手を振り下ろして、啓子に手のひらを向ける。すると風の槍は一本ずつ、空気を切り裂きながら啓子に向かっていく。
啓子は風の槍を回避する事に全力を注ごうとする。
(上手くいくかは分からないけど、賭けるしかない!)
一本目の風の槍が啓子に向かう。
「あぶっ」
啓子は飛び込み前転で避け、地面に伏した格好になった。しかし、二本目の風の槍が追撃してきたので
「きゃっ」
足元に風の槍が衝突した事によって啓子は吹き飛んだ。地面を転がるが、すぐに両手を地面について起き上がる。
「ほんとキリがない!」
啓子は風の槍を避け続けた。風の槍を避ける度に彼女は地面に両手をついて起き上がる。そんな啓子の様子を見ていた音流は彼女の体力が限界だと悟るが疑問が一つあった。
(ふふっ、もう限界みたいね……にしても、なんであの子、遠くに行かないんだろう。ずっと、この辺りを走り回ってるし)
ついに七本目の風の槍が啓子に向かうが彼女は前を向いたまま後方に跳躍し尻餅をつきながらも風の槍を避けた。
「はぁ、はぁ」
啓子は息を切らしていた。そして、上空見上げると、なんと音流が風の槍を再び生成していた。
「あんた、幾つ、それ作るのよ。」
「へぇ、まだそんな事言えるような元気があるんだ」
「私から元気を奪いたかったら殺す事ね」
「っ! 強がりを言うな!」
新たに五本の風の槍が上空に並んでいた。
啓子は尻餅をついた状態から両手をついて立ち上がり、音流に背を向けてゆっくりと歩く。
音流はこの状況下で啓子が取った行動が理解できなかった。
「あなた、なにをしてるの!」
「槍はもうそれ以上作れないの? もう能力を使い果たす寸前って感じみたいね」
「な、なにをいきなり……」
「あんたが放った槍は七本、その度に私は地面に手をついてたわ」
「それがどうしたし!」
「鈍いわね、私の攻撃がいくら直線的でも攻撃範囲を増やせばいいのよ、あんたが逃げ切れない範囲の」
「そんな事、出来るわけないから。出来たのならとっくにやっているはず……!」
音流は異変に気付いた。下方の地面、七か所から火の粉が舞っている事を。
「もしかして!」
「ぶち壊れろっ、【
啓子は音流に背を向けながら高らかに右拳を突き上げると、七か所の火花から円状の火柱が噴射する。そして、七つの火柱が互いに混じり合い大きな火柱を形成する。その大きさ、直径二〇メートル。
啓子は風の槍を避ける度に地面に両手をついていた。その時に、地面に対して能力を行使したのである。地面に小さな炎を起こしながら風の槍を避け続け、今、七か所の場所に生成した炎を火柱に成長させ決定的な一撃を加えようとしていた。その上、彼女はなるべく音流の真下で風の槍を避けていた。故に音流は火柱から逃げられない。
「【か、風の槍舞】!」
音流は生成している風の槍を下方から向かってきている火柱に放つ。放たれた五本の風の槍は少し火柱を切り裂いて進むが、火柱が余りにも広範囲な為、風の槍は炎の中に消えて行った。
「このままじゃ! 【三重・
音流を中心として球状の風の壁が三重に形成される。そして火柱は風の壁に衝突する。
「きゃああああああああああ‼」
火柱は風の壁ごと音流を包んだ。啓子は振り向く。火柱は大きすぎる為、音流はどうなったか確認できないが念の為、警戒していた。
(……確実に死んだ……と思う……この世界は表の世界の法が通用しない、圧倒的な力で全てをねじ伏せる事が出来るから……だがらこの世界に居る以上、力にはより強大な力で対抗しなきゃ生き残れない。いや、言い訳ね。私は自分の為に人を殺した)
啓子は命を奪ったという罪悪感に襲われた。しかし、能力者同士の殺し合いは珍しくない、今の世界の秩序を守る為。裏で手を汚し続ける必要もあった。現に神戸
火柱が消えると人影が空中から落ちてくるのが確認出来た。すると、その人影は地面に体を打つ前に、ふわりと浮き、ゆっくり着地した。
「ぅ……く……はぁ……はぁ」
音流は生きていた。地面にぶつかる寸前に能力を行使して着地したのである。服は焦げ付き、くるぶし丈のフレアスカートは太腿の辺りまで焼き切れていた。
啓子は驚いた。
「あの状況から生きてるなんて……」
「はぁ、はぁ、本当に……死ぬかと思った」
「……まだやる気なの?」
「あなたの能力……も底が見えてるんじゃないかしら」
「……」
啓子と音流お互いの眼を見る。
「赤塚……正直、私達の能力は底が見えてるわ。でも、身体的なダメージはあんたの方が上、ここでお互いに最後の力を振り絞っても私が勝つ可能性が高いわよ」
「そんなの、やってみないと分からないと思うし」
「それ、さっき私が言った台詞よ」
「ふふ、そうね」
「……いくわよ」
「ええ」
二人は最後の攻撃を繰り出そうとしたが、とある人物が突如、音流の背後から現れたのであった。
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