第四二話 拳と結界『風成vs義安』

 十月風成とおつきふうせいは左足を出して半身で構え、かなで義安ぎあんと対峙する。その距離、三メートル。


 義安は鉄が仕込んである黒革の手袋を脱ぎ捨てる。


「貴様、何者だ」

「……神戸特区能力所とっくのうりょじょ所属。十月風成だ」

「聞いた事ない名だ。新入りか」

「一方的に名乗らせるのずるくないか。名乗れよ」

「東京本部能力所のうりょくじょ中枢部。東京十長じゅっちょうが一人、奏義安」

「やっぱお前が奏義安か。とにかく、東京十長だろうが越えさせてもらう」

「【小結界しょうけっかい分離展開ぶんりてんかい】」

「!」


 義安は前方に蜂の巣状の結界を展開させる。結界の大きさは四五平方センチメートルである。


 蜂の巣状の結界が分離し八つに分かれると、結界はそれぞれ六角形として独立してた。


 風成は動かずに警戒する。


(こんな芸当出来るなんて聞いてないぞ。なんで、わざわざ結界をばらけて小さくしたんだ? そういえば、小物でファッションにアクセントを加えると女子受けがいいと聞いたな)


 風成はぶれ始めた思考を取り消す様に頭は横に振る。


 八つの結界は義安が居る方向に動き。義安が握った両拳、両肘、両膝の部位に結界が一つずつ密着し、残った二つの結界は義安の背後で浮いていた。義安が動くと各部位にある結界は密着したままだ。


 風成は義安の結界が自由に動くさまを見て、つい舌打ちをする。


「茂さんは一定距離に結界を出す能力って言ってたけど、一定距離内の間違いみたいだな」


 自分に言い聞かせる様に言った。義安の部位に分離した結界がくっついている事からグローブやプロテクト代わりに使うのが予想できる。義安は結界を使うから鉄が仕込んでいる手袋を捨てたのであった。また、風成は義安の背後にただ浮いてるだけの結界が気になった。


 義安は戦闘準備を整えたのであった。


「始めようか」

「そういえば本条と戦いたかったんじゃないのか」

「貴様を見て気が変わった。嘘をついて生きてる人間の眼をしている」

「どういう事だ」

「愚かだ。何も気付かぬとは」

「何が言いたいのか分からないけど。俺はお前は倒す、ただそれだけだ」


 風成と義安は同時に走り出した。義安は風成が右手を引くのを確認すると、自身は真っすぐ結界をかざした右拳を放つ。


 互いの右拳が重なる。


「くっ!」

「……」


 義安は結界越しに殴っている為、ダメージは無い。対して風成は壁を殴ったように自身の力が跳ね返り痛みを感じる。


「まだまだ!」


 風成は声を出し、自身を奮い立たす。右拳を引いて左拳を放つと右肘の結界で防がれる。そして、義安も右、左と拳を繰り出すが風成は顔を逸らし続けてギリギリで避ける。


「ぬっ、早い」


 義安は関心しつつ、攻撃のテンポを上げる。右拳、左拳、上半身を狙った右足、左足のハイキックを繰り出す。風成は即座に左肘、右肘で拳の結界を防ぎ、ハイキックに対しては右足、左足と対角線上に足同士を衝突させて防ぐ。


「せい!」


 風成は義安の攻撃を見切り、低空姿勢で義安の懐に入り込む。


「させん!」


 義安は風成の顔に向かって結界越しに右膝蹴りを繰り出すが、


「残念だったな」

「!」


 風成は膝の結界を左手のひらで受け止め、そのまま右拳で真っすぐ義安の腹部を殴る。


 殴られた義安は「ぐ!」と声を漏らして後方に吹っ飛んでいき、背中がガラス張りの窓に衝突した。『D.A.Lab』の窓は強化ガラスではあるがひび割れて今にも割れそうになった。義安は窓に衝突した後、難なく床に着地する。義安は上を見上げ、二階の飛び出している床の下に位置している場所だと把握する。


 風成は足裏を向けて飛び蹴りをすると義安は相手の攻撃に気付き、横に飛び込み前転して避ける。


「うわ! 避けんな!」


 風成は思いっきり窓に飛び蹴りをし、窓は粉々に割れる。ガラスで少し顔を擦った風成は外の地面に着地すると同時に跳躍するとビル内に戻っていった。


 二人は窓側で対峙していた。

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