ホムンクルス編

第一五話 日課の勝負『風成vsレイ』

――四月一五日。


 十月風成とおつきふうせいが『神戸特区能力所とっくのうりょくじょ』に入所してから三日が過ぎた。現在、彼は日曜にも関わらず早起きをして一人トレーニングルームに居た。


「……っは! ……はっ!」


 風成は肉体強化と言われる能力を行使してトレーニングルームで跳躍し、足が地面につくまで空中で右、左と拳を繰り出したり時折、足を横に払って蹴りを繰り出したりと修行に励んでいた。


 トレーニングルームは五〇平方メートルもあり、天井が七メートルもある。また、トレーニングルームの片側の壁には強化ガラスが張ってある。強化ガラスの向こう側には部屋があり、トレーニングルームの気温、湿度、気圧、風量を観測出来る。単純にトレーニングルーム内で訓練している人の様子を見る為にもガラスが張ってある。


「よっしゃぁぁぁぁぁ! 出来たぞ新技‼」


 少年は一人で勝手に満足していた。


――風成はトレーニングルーム内を壁に沿ってランニングしてると二つの扉が開く気配を感じて、通路と繋がっている扉を見た。通路側にはトレーニングルームに繋がる大きな扉と、その横に強化ガラス内の部屋に繋がる扉がある。


 大きな扉からは海辺が似合うイケメン、レイ・ヴィスタンスが現れ口を開く。


「オマエは朝が早すぎる」

「今日も来やがったな」

「ふっ……それはオレの台詞だぜ」

「今日は負けないからな!」

「なんだと! 負けないのか!」

「いや、なんでびっくりしてんだよ」


 風成とレイは毎朝、戦闘訓練を行っていた。


 彼らの戦いの合図は何時もレイがトレーニングルームに入った瞬間である。


「行くぜ! 十月とおつき!」

「来いレイ! うおおおお!」


 二人はお互いに向かい合って全力で走った。レイは右足に電撃を螺旋状にまとわせ、対して風成は地面を蹴って飛ぶ。


 低く飛んでいる風成は右足を引いて、飛び蹴りをしようとする。一方、レイは太ももをあげて右足を浮かせて待つ。


「【電撃脚でんげききゃく】」


 レイは電撃を纏わせた右足で前蹴りをし、風成の飛び蹴りに対処する。


「「ぐっ!」」


 足と足がぶつかり合うと電撃は弾け、お互いの衝撃を受けると風成とレイは少し浮いて後方に飛ぶが直ぐに体制を整えた。


 レイはすかさず、風成に向けて右手の指は向け、


「【五球電撃ごきゅうでんげき】」

 

 右手の各指から直径一センチの球状の電撃が飛び出し、風成に向かった。


「っ‼ そいや!」


 風成は避けずに前方を走る。彼は電撃が直撃する寸前、驚異的な反射神経で側転宙返りをした。電撃の球は側転宙返りをしている風成の頭のすぐ下を通る。


 次いで、彼は着地した瞬間に地面を蹴ってレイの前まで移動したが彼は両腕に螺旋状の電撃を纏っていた。


「【電撃双腕でんげきそうわん】」


 レイが両手で風成の両肩に手刀打ちした。


「うぐっ」


 風成はたまらず肩の力が抜けて、無防備な状態となる。


「今日もオレの勝ちだぜ、【電撃拳でんげきけん】」


 レイは踏み込んで電撃で包ませた右拳を振るおうとした。


 風成は両腕が上手く動かず、足技を使うにも遅すぎると思い、


「ウルトラショルダー!」


 と言い地面を両足で蹴って、金髪の少年に体ごと右肩をおもいっきりぶつけた。


「ぐあ!」


 レイは後方に二メートル飛んで倒れるが、体ごと飛んだ風成も横に倒れていた。


 二人は体制を整えて立ち上がり、金髪の少年が言葉を漏らす。


「くそ……凄い技だ、ウルトラショルダー」

「俺のウルトラショルダーは、まだまだこんなもんじゃないからな」

「恐ろしすぎるぜウルトラショルダー」

「だろ……そろそろ決着を付けようか」

「オレもそう思ってたぜ」


 二人の距離は近かった。お互い一瞬で決着が着くのを察していた。


 そして、二人は同時に動いた。


「【電撃拳】」

「いくぞ!」


 二人の拳がぶつかり合うと思われたが、電撃で拳を包ませているだけではなく生体電流で身体能力を底上げしているレイの方がパンチスピードが速かった。


「……っ!」


 みぞを打たれて声を漏らした風成は仰向けに倒れて悔しがる。


「はぁ……はぁ……くっっそ」

「ふっ……オレの勝ちだぜ」

「レイが来た時、ガラスの部屋に誰が入ったんだ」

「木馬と本条が入っていった」

「あいつら仲良いな」

「そういう事じゃないと思うぜ。木馬の能力は人の損傷しているところを感知するから、何かあった時の為に、この部屋に誰か居る時はいるぜ」

「あぁ、なるほど、本条はなんでいるんだ?」

「知らん」

「……あいつ暇かよ」


 と風成が膝に手をつけながら立ち上がると、レイと拳を突き合わせる。そして、彼らは「「お疲れ」」と言った。

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