第八話 第二公園で待つ

 風成ふうせい啓子けいこを両腕で抱えて走り始めたかと思われたが、


「ぐばぁ!」


 能力者になったばかりの風成は自身の超能力をコントロールできず、走り出した一歩目で五メートル先の突き当りの壁へと跳んでいき頭を強打した。


「ちょ、ちょっと大丈夫?」


 啓子は普通に少年を心配する。


「ここ入り組んでるから突き当りに気を付けてよ」


 そして、二の句を継いだ。


「くっ……俺が思うに、能力が目覚めたばかりで力がコントロール出来てないんだ」

「それ、さっき私が言ったから」


 啓子はジト目で風成を見る。


 そうこうしているうちに風成の背後から腕合わんごうが迫ってきた。以前、スキンヘッドの男には意識はない。


「うっお! あぶな!」


 間一髪、風成は少女を抱えたまま真横に跳んで腕合から放たれた衝撃波を避けた。その衝撃波は先程、風成が頭を打った壁と衝突し、直径五メートルの穴を開けている。


 攻撃を避けた風成は直ぐに駆け出し、入り組んだ路地裏を移動する。


「今のあいつの攻撃を食らったら、肉体強化っぽい能力に目覚めたあんたでも間違いなく無事じゃ済まないわよ」


 啓子は警告する、目と鼻の先にある風成の顔を見ながら。


「くっそー、最後に殴ったとき手応えあったのにな。あいつ体が丈夫過ぎるだろ」


 風成はぼやく。


「多分、薬をたくさん服用したせいで神経が狂って痛覚が鈍くなっているのよ」

「誰が作ったんだよ、そんな薬」

「私は知らないわよ。あんまりこの事件に関与してなかったし」

「なんか怪しいな」


 風成はいぶかしむような表情で言う。


「え? ちょっと誰疑ってんのよ」


 啓子は「何を言ってるんだ、こいつは」という眼差まなざしを向けた。


「いや、俺の推理によると犯人はお前だ」

「黙れ」


 啓子は風成を冷たくあしらった。


 しばらくすると風成は後の事を考えて、喋り始める。


「このままだと路地裏出ちまうけど、いいのか?」

「『第二公園』の場所分かる?」

「高台の近くにある公園だろ、さっきまでそこに居た。そこに何かあるのか? 仲間が居るとか」


 勘繰りながら風成は尋ねる。


「いや、休憩もしたいし、それにあいつの能力のことを考えると狭い通路で戦うのはまずいから開けた場所に行くわよ」

「なんか冷静に分析した感出してるけど、それさっき戦った時の失敗を踏まえてるだけだよな」

「…………」


 痛いところを突かれた啓子は無言で風成の胸板を拳で叩くと、少年は「うっ!」と声を漏らした。


――少年少女は第二公園へと移動する。


 啓子は移動の途中、自身が所属する『神戸特区とっく能力所のうりょくじょ』に公衆電話で第二公園まで応援を要請しようとした。啓子は周囲の人々からマジマジと見られながら、風成に抱えられた状態で電話をしたのでかなり恥ずかしい思いをした。その上、警官にまで呼び止められたが風成は小学生離れした速さで逃げ出して今に至る。


「はぁ……はぁ……疲れるな」

「心肺機能も時期に能力に適応すると思うわよ」


 息を切らしている風成に教示し、


「人はいないわね」


 啓子は周囲の状況を確認する。


「住宅地から少し離れてるし、近くにあるのは山の麓にある病院だけだしな」

「よっと……」


 風成の話を聞きながら啓子は、彼の腕から飛び降りる。ちなみに風成の言う病院とは現在、彼が住居としている病室がある病院だ。


「もういいのか?」

「うん、恥ずかしいし、人に見られたし」

「なんか重かったし、うぐっ!」


 風成が余計な一言を付け加えたので啓子は横腹をど突いた。


「なんか言った?」

「いや、めっちゃカルカッタ、ワタアメ、ミタイダッタヨ」

「っ」


 啓子は風成のふざけた片言加減に笑いそうになって唇を結びつつ、公園の中心に移動した。


「なんで、公園の真ん中にいるんだ?」


 風成は啓子の行動を不思議に思い口にする。


「周囲を見渡して警戒するためよ、あんたも来て見張って」

「なるほど、頭良いな。天才」

「あんたが言うと冗談に聞こえる。後、私、体重軽い方だから。ほら見てこの腕! 細いって言われてるから」

「必死か」


 風成は意外とさっき言ったことを引きずるんだなと思った。


 ここ、第二公園は山の斜面にあり、木々に囲まれているのが特徴である。そのど真ん中で二人は互いに背中を向けて、周囲を警戒していた。


「「…………」」


 二人は黙っていた。長いようで短い静寂が続く。


 しばらくすると、風成は足音に気付く。誰かが公園に向かって来ていると判断する。


「来るぞ」


 啓子に身構えろと暗に伝える。


「どっち?」

「俺達が来た方向だ」


 二人は横一メートルの距離をとって、自分達が来た方向を向いて構えた。


――そして、現れたのは腕合だった。

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