第九話 第二公園撃退戦

「うぅ……クソガキっ!」


 『第ニ公園』に腕合わんごうが唸り声を出し現れる。意識があるようには見えないが少年少女に敵意を向けていた。服用した『B.H.D』の影響で理性が無くなり本心をき出しにしているように見える。


 啓子けいこぐさま、相手の攻撃に備えてしゃがんで地面に両手のひらを当てていた。


「何してんだ?」

「とりあえず、私が今できる最大の防御技を試すわよ」


 啓子は風成の問いに答える。


 その間、腕合は右腕を引いて手のひらを風成と啓子に向けて押し出す。すると手からは直径五メートルの衝撃波が放たれていた。このことから『B.H.D』によって人差し指でしか衝撃波を放てないはずの超能力が進化していることが分かる。


「【三重さんじゅう炎壁えんへき】」


 啓子は動揺することなく能力を行使する。彼女と風成の前方には三重の炎の壁が展開された。


「くっ! やっぱ駄目……!」


 地面に手を当てたまま炎の壁を永続的に展開しようとするが壁が一枚、二枚と腕合の放った攻撃に耐えきれず崩壊していった。三枚目の壁が崩壊する瞬間、風成は啓子の左腕を掴み衝撃波を回避しようと横にジャンプしたつもりだったが、


「しまった、飛び過ぎた!」


 と言う彼は啓子の左腕を握ったまま、上空五メートルの位置までジャンプしていた。


「馬鹿っ! 狙い撃ちされるわよ」

「頼む、なんとかしてくれ」


 腕を握られた少女が焦ると少年は懇願こんがんした。そうこうしているうちに腕合は空中にいる二人に向けて先程と同様の衝撃波を放った。


 このままではまずい、と思った啓子は力任せに空中を思いっきり蹴った瞬間、足から炎を噴射させる。すると、公園を囲んでいる木々の所まで飛んでいき――、


「くぅっ」

「うぅ」


 木の樹皮に思いっきり体をぶつけた風成と啓子はうめいていた。


「ブレーキかけてくれよ」

「出来たらやってるわよ」


 風成の軽い恨み節に啓子は言葉を返す。


 二人は木にぶつかって打ち身を起こしたであろう体の部位をさすりながら、太い枝の上にまたがっていることを把握する。


 啓子は腕合の方を指差して話を始める。


「あいつ近付いて来てるわよ」

「何なんだよ、あの執念、別の事に向けてくれよ」

「それは同意」


 そう言って、啓子は嘆息する。


「それはそうと、俺に考えがあるんだけど」

「……びっくりするぐらい信用できないんだけど」


 その後、「おい」と風成がツッコミ、啓子はとりあえずいてあげるみたいな態度をとる。


――少しして、啓子は木から飛び降り、着地寸前で片足から炎を噴射させて着地の衝撃をやわらげた。なお、彼女の周囲には風成の姿は無い。


「うぅ……!」


 腕合は啓子が現れたことに気付き唸る。以前、意識があるのかないのか不明な状態だが敵意がひしひしと感じられた。 


 啓子は敵に対して距離を保って構え、


(あいつ、無茶なこと頼み過ぎよ。しばらく能力を使えなくてもいいなら少しの間は止めれるかもしれないけど)


 風成が提言した作戦を思い出していた。


 次いで、啓子は全力で超能力を行使する。自身の両拳に拳の五倍はある炎の球体を包ませると、その炎は腕から肩にメラメラと飛び散っていた。


 少女は口を開き、


「こい!」


 と挑発するとスキンヘッドの男は右手のひらを押し出して直径五メートルの衝撃波を放った。


「……! 【火炎連拳かえんれんけん】!」


 啓子は目を大きく目開き、地面をえぐりながら進んでくる衝撃波に対して右拳を繰り出し殴ったと思えば左拳を繰り出し、右、左と交互にパンチし続けた。


「うおりゃりゃりゃりゃりゃ‼ おりゃぁぁぁぁぁ‼」


 彼女は自分でも訳が分からないくらい叫んで拳を繰り出し続けた。一〇発……二〇発……三〇発と打撃が続き、衝撃波はき止められていた。


(もうっ、限界! 腕が重い……あいつ遅すぎる)


 風成が後から来る手筈てはずになっているので啓子は焦っていた。ただ、風成が逃げたとは考えていない。知り合ってから一時間も経っていないが、逃げるよう奴なら最初から私を助けはしないだろうと思っていた。


 腕合はらちが明かないと思ったのか衝撃波をもう一発放とうとする。その時、上げようとした左腕が上がらず身動きさえ取れなかった。


「なぁ、おっさん、ブランコは好きか?」

「……ぅ‼」


 風成は腕合の背後から声をかけていた。


 スキンヘッドの男は視線を落とすと、お腹周りにまとわりくようにブランコの椅子があるのに気付く。また、ブランコの両端から出ている鎖が両腕を抑えつけていた。


「なぜっ……」


 腕合は首を動かして背後を確認すると、後方で風成がブランコの両端から出ている鎖の端を両手で一つずつ掴んでいた。


「っあ!」


 顔を歪めるスキンヘッドの男。風成は腕を交差させて、腕合の背中を鎖で締め付けていた。


 風成は啓子に腕合の攻撃をしばらく塞き止めてくれと頼み、彼自身は別の公園でブランコをもぎ取り、腕合が啓子に注目している間にブランコの鎖の端を持って相手の体に纏わりつくように投げつけたのであった。啓子は「なんでブランコなのよ」と言っていたが、この作戦を了承している。


「早く! 早く‼」


 啓子は限界を越えつつも衝撃波を塞き止め、風成に行動を促した。


「よっしゃ! いくぞ!」


 風成は鎖を持ったまま腕を後ろに引くと、腕合は地面に引きずられながら風成の後方に移動した。そのまま、風成は両腕を振りかぶり腕合を上空から啓子に向かっている衝撃波の所まで投げつける。


「くらいがれ! ブランコキャノン!」

「うわ、ダサ」


 啓子は風成のネーミングセンスをけなしながら後方に跳んだ瞬間、腕合は自ら生み出した空気の塊と衝突し、


 バンッ‼


 と破裂音が響くと同時に風成は鎖から伝わってくる衝撃に耐えれず両手を離した。


 腕合は公園の周囲にある木々の所まで吹き飛び、背中が木の幹に当たると木が折れて、そのまま突き抜けていき、二本目の木に当たったときにようやく止まる。


 二人は木々の間で倒れている男の様子をうかがう。腕合が立ち上がってくる様子が無いので少年少女は安堵し、


「「終わった」」

 

 と言って地面に体重を預けるように座った。

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