第83話 指名した理由

『冬真さん、聞こえますか? 』

『聞こえてますよ。この距離でも繋げられるんですね。凄いです』


 最近分かったが、相手の居場所が分かれば、何処でも繋げることができるらしい。距離の制限もないんじゃないか?


『今日も、気をつけて頑張ってください』

『はい。何かあったら、報告しますね』


 「何かあったら」のが敵の情報であることを祈る。京さんたちに、圭さんとテレパシーを繋いだことを伝えた。


 いつまで潜入していられるか分からない以上、早く全員の能力を聞き出してもらいたい。ただ、急げば急ぐほど危険になる。どうするかは、圭さんに任せるしかない。


「圭のことが心配か? ま、俺も心配なんだけどさ」


 令さんが言った。心配に決まっている。


「圭は、頼りなくて頭の回転も遅い。でも、新しい環境に馴染んだり、人から信じてもらうのは何故か得意なんだよ。カメレオンみたいなものだ」


 カメレオンって……あぁ、だから令さんは、圭さんを指名したのか。1番上手く潜入できると分かっていたから。


「ま、だから大丈夫さ。それより、俺らもできることをやろう」

「そうですね」


 今日もネット上の情報を集める。役に立つか分からないが、ひたすらやるしかないんだ。よし、心の中で呟く。すると、京さんが言った。


「あぁ、そうだ。1人、助っ人を呼んだんだ。今日中には来ると思うぞ」


 助っ人? 確かに、人は少ないから助かるが。誰なんだろう。まぁ、後で分かるだろうし、今は他にやるべきことがある。


 2人が次々にプリントアウトする書類を仕分けていく。作業をしていると、頭の中に声が響いた。


『奏さん、1人の能力が分かりました。パイロキネシスです。発火しているのを見ました』

『分かりました。引き続き、頑張ってください』


 もう、3人の能力が分かった。良い調子かな。


「圭さんから連絡です。1人の能力が分かりました。パイロキネシスです」


 それにしても、プレコグニション、テレポート、パイロキネシス……俺らと似ているな。でも、これは好機なのではないか。先天性と後天性、強いのはこちらだ。


「そうか。ありがとう」


 少しずつ、情報が揃ってきた。作戦もできているんだろうか。残りの能力者は2人、圭さんなら大丈夫だろう。でも、あと何日で戦闘になるのか。小さくため息を吐く。


「ん? これって……」


 令さんがプリントアウトした紙を見て、呟いた。紙には、過去にあった争いの写真が載っていた。写真には炎が上がっている。パイロキネシストが起こしたものか?


「京、これやる」

「何だ? おぉ、ありがとう」


 あれは、作戦にも使えるだろう。意外とネットにも転がっているものなんだな。俺らのやる気が上がった。その時、エレベーターが動く音がした。誰か来たのか。

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