第67話 記憶喪失

『奏さん、警察と救急車が到着しました。今から、壁を破壊します』

『分かりました』


 一静を、壁から離れた所に移動させると、壁にヒビが入って一気に崩れおちた。救急車のストレッチャーが入る。拓哉さんも建物内に入って言う。


「彩予さん、圭、離れて大丈夫ですよ」


 犯人の重力を大きくしたのだろう。そして、京さんに言う。


「京さん、救急車に乗ってください。後は、俺らに任せて」

「でも……」

「もっと、こういう時くらいは、部下を頼ってくださいよ」


 拓哉さんの言葉に、京さんが頷く。焔と影が代わりに残り、俺と京さんが救急車に乗ることに。彩予とテレパシーを繋ぎ、どの病院に運ばれたかを伝える。救急車は、1番近くて大きい、大学病院に向かった。


 待合室にいると、すぐに彩予と一静が来た。


「……見えていたんです。あの時、瞬が怪我をする未来が。でも、止めたら戦いに勝てなくて。それに、はっきりとは分からなかったんです。どういう風に怪我をするのか……もっと、僕がちゃんとしていれば……」


 そう言い、俯く彩予に京さんが言った。


「彩予くんのせいじゃないよ。その2択なら、瞬は間違いなく、戦いに行っただろうさ」


 確かに、瞬なら行っただろうな。それに、悪いのは怪我をさせた人だ。それ以外の人は、何も悪くない。そういえば、と思って一静に訊く。


「一静は、もう大丈夫なんですか? 」

「あぁ、大丈夫です。すみません。……あの時、一瞬だけんです。それで……」


 ? 思い出したのではなく? 疑問を浮かべていると、一静が言った。


「僕、2年前に記憶喪失になったんです。詳しい理由は覚えていないんですが、両親が家で死んでいるのを見たショックで、らしいです。瞬さんが刺された時に、それを思い出したようで……」


 記憶喪失、本当にあるんだな。


「あぁ、あの事件か。あれは、かなり悲惨だった。俺も吐き気を覚えるくらいな」


 京さんが言った。そんな事件があったのか。2年前は、テレビをあまり見なかったからな。知らなかった。一静が鼻で笑って言う。


「皮肉ですよね。サイコメトリーの能力を持つ僕が、記憶喪失だなんて」


 皮肉か……どうなんだろうな。返事できずにいると、待合室に瞬が来た。


「瞬! 大丈夫なのか? 」


 真っ先に京さんが、瞬の元に行く。瞬は苦笑いで返事をする。


「傷は浅くないけど、腕だったし、命に別状はないよ。それに、今は麻酔が効いているからね。心配かけて、ごめんなさい」


 取り敢えず、大丈夫なんだな。一応、数日間は入院することになったらしい。傷が結構深かったようだ。焔たちにも連絡を入れた。向こうは向こうで大変そうだ。

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