第14話 奏の時間稼ぎ
この俺らの配置には、1つだけ穴があった。それが俺らだ。能力的にも、身体能力的にも戦えない俺らが、狙われたら何の抵抗も出来ない。
『今、向かってる! 』
しかも、管理室は4人の位置から離れた場所にある。瞬を頼りすぎていた。侵入者はドアを挟んだ先にいる。ドアを開けられたら……その前に、少しでも時間を稼がなくては。
『時間稼ぎの為、1度テレパシーを切ります』
間違えて、他の人に音が流れないように。4本の糸を切り、侵入者とテレパシーを繋ぐ。
繋いでいる間に、手元のスマホにイヤホンを差し込む。そして、人が聞いて不快な音、金属を爪で引っ掻く音を流し始める。
俺の聞いた音は、侵入者の脳内に流れ込む。音量を上げていくと、ドアノブを回す音もしなくなった。
「奏さん、大丈夫ですか? 」
首を縦に振る。これだと、俺まで動けなくなる。でも、テレパシーはこういう風にしか使えない。集中できなくなるどころか、頭が働かなくなるんだ。
不快な金属の音に、頭痛すら感じてきた。早く、誰か来てくれ。音に耐えながら願っていると、音の隙間から男性の悲鳴が微かに聞こえた。
「奏さん、助けが来たみたいですよ」
一静の声に、音を止めて糸を切った。ズキズキと痛む頭を押さえながら、ドアの方を見ると炎が上がっていた。その直後、何かが壁に思い切りぶつかる音がした。
「おい! 奏、一静、大丈夫か? 」
焔の声だ。そうだ、テレパシーは切ったんだったな。一静がドアの鍵を開ける。
「何とか大丈夫ですよ。それより、さっきの音は何ですか? 」
「あ、それ俺っすよ」
ドアから外を見てみると、黒い服の男が大きな黒い手のようなものに、押さえつけられていた。なるほどな。
「はぁ……間に合って良かった」
そう言い、床に座り込む焔。徐々に頭も働くようになってきた。
「奏さんが、上手く時間を稼いでくれたからっすよ」
「いやまぁ、俺に出来るのはこのくらいなので」
上手く返す言葉が見つからなかった。そうだ、瞬の方はどうなったんだろう。防犯カメラの映像を見ると、床でくたばっている侵入者と、カメラに向かって手を振る、瞬と彩予がいた。途中から彩予も一緒に戦っていたんだろうか。
瞬と彩予にテレパシーを繋ぎ、こっちに来るように言った。時刻は21時15分。
「それで、これからどうする? 」
「今回は不可解な点が多かったですよね。わざと瞬を足止めして、俺と一静を狙ってきた……まるで、全員の能力を知っていたような」
「あぁ、そもそも今日俺らがいること、どこに誰がいるのかを知っていたみたいだった」
もし、その全てを知っていたのだとしたら、どこから情報が漏れたのだろうか。焔と影が捕まえた侵入者は、ほとんど抵抗できなかったらしい。多分、彼は能力者ではない。
「そういえば、明日の22時まではここにいて良いんだよね」
縛り上げた侵入者2人を見ながら、瞬が言った。
「なら、本人に直接聞いた方が早いよな? 」
にやりと口角を上げる瞬。……嫌な予感がする。
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