第9話 夢で逢う

 神殿騎士と巫女は、少し怪我をしているものの、大事はなく、一緒に連れて神殿に戻る事が出来た。


 帰りの馬車では、私と大神官様は同じ馬車で二人きりで話をすることが出来た。



 この国では政治と宗教は別に成り立っていて、大神官とは、国王陛下と並ぶ、国の双璧であり同等の位なのだ。


 それなのに国王陛下も皇太子殿下も、血の繋がりがあるという事だけで、軽視してあからさま傲慢な態度を取られていた。それを見て、とても悲しくなったのを思い出す。


 


 精霊は加護する者をとても愛しているそうだ。


 私を守護する精霊は大精霊だと大神官様は仰った。


 例えば、今回の聖女候補達に加護を与えている精霊達は、皆、下位の精霊なので、私を守護する大精霊を恐れ敬っている。


 その大精霊が一たび怒りでこの世を満たせば、簡単に世界は崩壊するらしい。


「大精霊が私にそなたの事を守るように仰った。そなたの心を壊すのが怖いそうだ」


「わたくしの心?」


「そなたは優しすぎるのだ。精霊にすれば自分の加護を与える人間以外は塵のような物だ。それが、どうなろうと気にならない。だが、その力を振るい、加護しているそなたの心が傷つくのは嫌なのだ。だから、私の所へそなたを助けるようにと話して来られたのだ」


「大精霊様がですか?」


「そうだ。私はそなたをとても大切に思っている。加護を与える精霊と同じで、そなたを傷つける者は許せないのだ」


「大神官様が・・・私を?」


「そうだ」


 大神官様のその言葉をどうとったら良いのだろうか?私の都合の良いように、思っても良いのだろうか?


「あの・・・私も大神官様がとても大切で・・・生きている事がとても嬉しいと思うのです」


「ああ、良かった。私も同じだ。フィリーチェがこの世界に居てくれてとても幸せだ」


 大神官様の麗しい御尊顔は、私を見つめて笑み崩れた。


 この世界には、こんなにやさしく私に微笑んで下さる方がいる、嬉しい、幸せだ。


 そう思うと、この世界に感謝の気持ちが溢れる。


 ありがとう。私に優しくして下さる優しい皆にありがとう。


 せかいに祝福が満ちますように・・・。



「そなたの加護をされている大精霊は、夢でそなたに会いに行くと言われていた。だから畏れないで欲しいとの事だ」


「大精霊様が私に会って下さるのですか?」


「その様に仰っていた」


「まあ、なんて光栄なのでしょう」


 思わず胸の前でお祈りをするように手を組んだ。


 私が今ここに生きているのも、大精霊様のおかげだ。お会い出来たらお礼を言いたい。


 神殿に戻り、私の傍付きの巫女を労(ねぎら)い、神殿騎士にもお礼を言った。


 二人共怪我をしているのに、守り切れなくて申し訳なく思いますと言うので、涙が零れる。


 その涙が、七色の水晶になって零れて落ちて行き驚いた。


 零れ落ちた七色の水晶はそのまま煌めいて怪我をした二人の身体の中に吸い込まれていく。


「まあ、怪我が・・・」


 ふたりの打ち身や擦り傷が、跡形もなく無くなり、驚いた。


「ああ、きっと、フェリーチェ様は聖女さまになられるのでしょう。なんて尊いお方なのでしょうか。そのお方を害そうなどと、その様な方は酷い天罰を受けます。あの、この様な私でも、このままフェリーチェ様のお世話を続けさせて頂けるのでしょうか?」


 巫女が心配そうに聞いてくる。


「フィリーチェ様。今後も御身をお守りさせて頂いてよいのですか?」


 今度は神殿騎士もそう言った。


「まあ、二人共ありがとう。もちろんよ。私、とても嬉しい」


 三人でその場で笑い合った。




 そして、その夜のこと。


 神殿でいつものように心穏やかにベッドに入る。大神官様からは、ゆっくり休みなさいと言われた。


 お母様に似た天使様にもお休みなさいのご挨拶をして眠りにつく。


 

「フィリーチェ・・・」


 なつかしい母様の声が聞こえて目を開けると、そこは一面に花の咲き乱れる美しい場所だった。


「母様?」


 驚いて花の中に立ちあがると、少し離れた所に、母様と、男の人が立っていた。


「フィリーチェ。我が娘よ」


 男の人は、背の高い美しい人だった。しかも、髪の色と目の色が私とそっくり同じなのだ。


「父様なの?」


「ああ、そうだ。フィリーチェ。なんと愛おしい」


「父様と母様に会えるなんて、夢の様です」


 そういうと、今度は二人に交互に抱きしめられた。


「フィリーチェを残して精霊界に行ってしまってごめんなさい」


 母様は私を抱き締めてそう言われた。


「精霊界?母様は精霊界にいらっしゃるの?」


「ええ、そうよ。大精霊である旦那様の元にいるの」


 母様は幸せそうに、父さまに寄り添った。


「え、父さまが大精霊なの?」


「ああそうだ。私が大精霊だ。人の世の時の速さの違いを忘れて精霊界の仕事をしているうちに、時が経ち、大変な事になっていた。我が妻と、フィリーチェには酷いことをした。すまない」


「いいえ、私、大神官様のお傍にいられる今がとても幸せなのです。それは父さまと母様が私に生を与えて下さったからです。お二人には感謝の気持ちしかありません」


 私がそういうと、今度は父さまが抱き締めて下さった。


「もし、フィリーチェが精霊界に来たいと思えばいつでも受け入れる準備があるのだ。お前の愛する者と一緒に」


「まあ、父さまありがとう。でも、今はまだ他にもたいせつな人達がいるから、人の世界に居たいと思います。お二人は、会いたいときにはまた会って下さる?」


「もちろんだ」


「もちろんよ、可愛いフィリーチェ」


 その、夢の中で、精霊界の宮殿に招かれ、両親とお茶を頂いた。花の香りの美味しいお茶だった。


「とても美味しいお茶だわ」


「そうか、それでは土産に持たせるとしよう」


  


 朝、目覚めると、私の枕元には、美しい化粧箱に入れられた、花の香のお茶葉が置かれていた。



 




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