第5話 守護の神器
あれから、5年経ち、私は15才になる。
大神殿の特級神官様は、キルス様だけになられたみたい。
他のお二人は御老体だったので、体調を悪くされて神官を辞められたそうだ。
それも、だいぶ前のお話だった。神官様や巫女、神殿騎士の入れ替えなどが重なり神殿で働く人の配置換えがあったのだ。
私に精霊の加護の鑑定が行われてからは、神殿騎士が付けられたのでどこにいくのも彼らが私を守ってくれている。それは今も変わらない。
大神官様の御配慮で、私には新しくお義母様とお義父様が出来た。名門のランベル公爵家だ。
お二人に、公爵邸で暮らしてはどうかと誘われたが、私は大神殿を離れたくなかったので、護衛が大変になるという理由でお断りさせて頂いた。大神殿の方が護衛が少なくて済むからだ。
それでも、お義父様とお義母様は大神殿に月に一度は必ず会いに来て下さって、お菓子や綺麗な服、珍しい絵本などを差し入れて下さる。
ランベル公爵家には、私にとっては、お義兄様となる方が二人いらっしゃる。男の子だけだと華やかさがないので、娘が出来てとても嬉しいのだと言われた。
私も15歳になり、巫女の仕事を学ぶ様になった。これは私の望みでもある。
聖女候補は全国に5人程いるそうだけど、自分が聖女に選ばれなかった時には巫女として大神殿に残りたい。
その為にも、巫女の仕事を習っていれば安心だと思った。
「そう言えば、今日耳にしたのですが、秋の収穫祭で、聖女候補のお披露目があるそうですよ」
私付きの下級巫女からそう聞いてとても驚いた。
「お披露目?何をするのですか?」
「それが、この度の聖女候補様方は、同じ位の年齢の方ばかりなのだそうです。こういう事は大変めずらしいそうです。いい機会なので収穫祭に皆さまを集めて国民にお披露目をしようと陛下が仰ったそうです」
「それは、どうしても出席しなければいけないのでしょうか?」
「陛下のお声がかりなので、出ない訳にはいかなと思います。今の聖女様はご高齢ですので、こういった行事にはもう殆ど出られなくなりましたから、聖女候補様達がお集まりになられたら場が華やぐと思われたのでしょう」
「それは・・・大変そうですね」
出来れば人前にはあまり出たくないけれど、仕方がなさそうだ。神殿騎士に負担をかける事になると思った。
その時、ノックがされて、大神官様とキルス様が部屋にいらっしゃった。
「人払いをせよ」
大神官様の声で神殿騎士が動き、部屋の巫女もいなくなった。
「フィリーチェ、他の者から聞いたかもしれぬが、秋の収穫祭ではそなたの出席も陛下から求められている」
「はい、お聞きしました」
「聖女候補五人を全てお披露目だなどと言われているが、本当の目的は聖女を王家に取り込みたいという所だろう」
「えっ?」
「その為の面通しだと思われる。陛下を一言お諫めしたがどうしてもと仰る」
「私、そのような政治的な思惑の絡む場所には行きたくありません」
「そうだな、私もそなたをつまらぬ場所に出したくはない。だが、すでに国民に通達を出してしまっていた」
「では、仕方がないのですね・・・」
「それで、そなたに渡して置きたい物があるのだ。キルス、箱を」
「はっ」
キルス様が持ってこられた箱を大神官様が開けられると、中には・・・。
「それは!」
「これはそなたの物なのであろう?」
大神官様が開けられた箱の中には、父の懐中時計が入っていた。
「はい、これは、父の物です。母から渡されました」
「そうか、これは私の見立てでは守護の神器だ」
「守護の神器?」
「そう、これは、そなたを守っていたのだ。とても強い守護の力を持っている」
それを大神官様が手に取ると、なんと、懐中時計から、サークレットへと形を変化させた。
「あ、形が・・・」
銀色の華奢な細工物へと変わり、それを大神官様が白く美しい指で、私の額へとそっと添わせられた。
「そなたに良く似合う。とても美しい」
大神官様がそう仰って、私に向かい微笑まれた事で、心臓がバクバクと高鳴り始めた。
「これは・・・一体どうした事でしょうか?」
ほおを抑えてそういうと、私の髪を撫でられた。
「この守護の神器は、幼いそなたにはまだ強すぎたのだ。精霊の強すぎる加護はそなたの身体にも負担となっていたようだ。それで、一度遠ざけたのだ。今ならば成長したので自分で調節できるはずだ。神器はそなたに似合う形に変化したのだろう。この神殿の池に浮かんで来た時、そなたがしっかりと握り締めていたものだ」
「失くした物と思っていました。よかった」
サークレットからは温かい波動が流れてきた。
「この神器を付けて居れば、そうそう恐れるものはないだろう。例え王族であろうともな。もちろん、私もそなたを守る」
「はい、ありがとうございます」
大神官様はこれまでも、いつも私を守って下さっていた。
私は大神官様の事をとても大切に思っている。
初めてここに来た時から、淡く憧れを抱いていたのだ。傍にいられるだけで嬉しい。そういう大切な方だった。
あさ目覚めて感謝し、眠る前にも感謝するほどに。
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