スナ ノ ホシウタ

三色

0ー0 ナガレ ボシ

 かつて、戦争があった。


 かつての人類は、地球を囲む軌道エレベーターを橋頭舗に、月を筆頭に地球圏の各所に人工の大地を建造し、その先の宇宙にまで開拓の手を伸ばすほど、その文明は繁栄を極めていたという。

 しかし、人類は互いに争い合うという業からは逃れられないのか。

 広大な宇宙を切り拓き旅するための技術は戦争の道具へと貶められ、何を発端としたかすら定かでないその戦争は、 母なる星に致命傷を与え、同胞の九割を殺し尽くし、勝者など無きままなし崩しに終結した。

 残されたのは、不毛と化した砂の大地と僅かばかり生き残った生命と、余命幾ばくも無い地球ーーそして、未だはびこる戦争の道具たちと、突然変異の異形生物たち。


 惑星ほし終焉おわりは近い。

 爪痕はどうしようもなく深く、自然の治癒力のキャパシティをとうに超えている。いずれ太陽の寿命を迎えるよりも先に、この惑星は崩壊するだろう。

 けれど……彼等はそれを知っていてなお、明日へ繋がると信じて今日を懸命に生きている。

 だから──



 その日、一筋の流星が降る。

「流れ星だ」

 一人の少女がそれを見送る。

 夜の砂漠に佇む一両のサンドトレイル、少女はその上に寝転んだまま呟く。

「星に願いを、か」

 流れ星を掴むように伸ばした手を緩く握り、小さく息を吐いた。

 砂避けのフードを少し下げる。

「だったら、星の願いは誰が叶えるんだろう?」

 露わになった銀色の髪を夜風に靡かせ、誰にともなく問う。

 当然、答えなどどこからもない。

「寝るかな」

 白く息を吐き、少女は傍らの垂直ハッチを開いて、サンドトレイルへの中へと身を翻す。

 そしてハッチを閉めようとしたその時、なにかが聞こえた。

「……?」

 風の音でもなく、耳鳴りでもなく。まして機械のアイドリング音でもない。

 意味をなさない音のようで、意思あるにも思えた。

 けれど、それ以上何かを訴えかけてくるものではなく。

 ーー気のせいか。

 そう判断した少女は、愛車の中へと消えた。


 荒凌とした砂の丘。

 人工の灯りは途絶え、太古から変わらず、されど常に変わりゆく星空の下で、人は今日の営みを終え明日に備えて眠りにつく。


 砂と風だけが支配する砂漠。

 これは小さな旅路の物語。

 あるいは─ただ、生命が生きるために綴った軌跡だ。

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