第8話 優斗の気づき




月曜日。朝の賑やかな教室に沙耶が入ると、朝練のあった優斗がもう来ていて、おはよう、と声を掛けてきた。


「おはよぉ。昨日、大活躍だったね」


「応援ありがとうなー。結構良い試合だったろ」


にこにこと言う優斗は、本当に昨日の試合に満足しているようだった。


「うん。芽衣ちゃんも一生懸命応援してたし、崎谷先生と横尾先生も凄いなあって応援してた」


「先生たちも?」


「うん」


沙耶が言うと、優斗はちょっと表情を変えた。なんというか、ちょっと思案するような顔だ。


「…ゆうと?」


何か、変なことを言っただろうか。心配になって沙耶が優斗を呼ぶと、優斗は、いや、別になんでもないけど、と言い置いて、それから、ちょっと沙耶の方へ顔を寄せるようにして話しかけてきた。


「……あのさ、崎谷先生も横尾先生も、沙耶のこと、構いすぎなんじゃないかな?」


「構いすぎ?」


ちょっとした内緒話のような格好だ。何のことを言われているのか、沙耶には分からなくて、きょとんとしてしまう。


「だってさ、横尾先生なんて、世界史の先生ってだけで、別に担任でもないのに、よく沙耶に話しかけてるし、崎谷先生だって、個人補習とか、普通補習だったら、もっと人数集めてやるじゃん?」


ほんの少し、厳しそうな顔をして、優斗がそんなことを言う。沙耶は全然気にしていなかったことだったから、そんなことを言われて、ちょっとびっくりした。


「…そ、…っかな。でも、横尾先生も崎谷先生も、良くしてくれるよ?」


「うん。だからさ」


ますます優斗が声を低くする。本当に内緒話みたいになってきた。


「沙耶が、先生たちに気に入られてるんじゃないかなって。あんまイイことじゃないけど、贔屓する先生も居るって話だし、沙耶が贔屓されてるってなったら、他の子たちから嫌がらせ受けたり、するかもしれないじゃん」


横尾先生は、三年生の先輩に人気があるし、崎谷先生も、意外と女子受けいいみたいだから、気をつけた方が、良いんじゃないかな。


こそこそと、そんなことを優斗が言った。


優斗は、自分の推論が間違っていないと確信した強い瞳で、沙耶を見てきた。すごく真剣に自分のことを心配してくれていることがわかって、沙耶は逆に戸惑ってしまった。だって、先生たちのことを、そんな風に思ったことなんて一度もないから。


「うん。沙耶がそう思ってないこと、分かるよ。でも、俺から見たら、絶対先生たちは沙耶のとこ、気に入ってるんじゃないかな、って思うよ」


優斗の、真剣な言葉に応えられない。もし優斗の言うことが本当だとしても、沙耶にはどうしたらいいのか分からないのだ。


返事に窮していたら、予鈴が鳴った。優斗は、気をつけてね、と言ってそのまま自席に座りなおしていた。沙耶も席に着く。がらっと音をさせて教室の扉が開くと、前の方の席の優斗がちらっと振り向いて、分かった? とでも言うように、沙耶に対して小さく指で合図を送ってきたけど、沙耶は返事が出来ないままだった。



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