海月
タケノコ
第1話
「ねえ、将来さ、二人で月に行こうよ。」
小学生の夏、空を見上げて君はそう言ったね。
15年後…
私は海の中を漂って水面に映る黄色の光を見ていた。なぜだろう、よくわからないが上を目指して上がらなければいけないような、そんな気がした。足をばたつかせて何とかうえに上がろうとするのだが、うまく上に上がることができない。波にさらわれるばかりで、水の抵抗が何もないような気がしてくる。全身を動かすとだんだんとコツがつかめてきて、少しづつ体が上に浮上していくのを感じた。しかし、全身を動かさなければいけないため、すぐに疲れて休憩を挟まなければいけない。水面が近づいてきていて何となく冷たい風が体の表面を撫でて、突然渇きを覚えた。光を放つ明るい存在が遠く向こうに存在しているのが見えた。
目指していたものがさらに遠いところに存在していることに絶望した瞬間、過去の記憶が体の中を駆け回るような気がした。体中の水分が向け落ちたかのようなそんな衝撃だった。いっしょにつきに行こうという輝いた眼をした少年の横顔が月に照らされてるのがまぶしく見え、より一層の絶望を感じた。そうか、確かあいつは月に行くために必死に勉強して、一流の大学に行って、宇宙飛行士の採用試験にも合格して…、それで…、
私は…?
必死にあいつを追いかけた。だけど、別に月に行きたかったわけでもない。勉強は好きだった。本当に。嘘ではない。でも、天才といえるかといえばそうではなく、天才に追いつけるだけの努力家というわけでもなかった。
ああ、そうか。だからだ。あいつのとなりにただいたかった。あいつのあこがれで、その輝く視線の先にいられたのなら、とそう願ったのだ。今まで上ばかり見つめていた視線が初めて、下へと落ちた。なるほど…。月にいるあいつにこのまま海を飛び出して、タキオンよりもはやい速度で会いに行けたとして、きっと自分だということをあいつはきづいたりしないだろう。そもそも自分のことをちゃんと見ていたのかさえ怪しいのだ。
そろそろ水が恋しくなったころじゃないか?そう聞いてみたい。自分はほぼ水と同価値だろう。水以上の価値なんて存在しない。
せめて、…最後に……あい…つ………に…会えた……な……ら
もう脳みそまでなくなってしまいそうだった。
海月 タケノコ @nanntyatte
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