163 お盆休み前のミッション 4
亜香里が鹿島神宮の駐車場に着くと、カジュアルな服装をした詩織と優衣が待っていた。
「2人とも早いじゃない? ミッション中なのに何故、普通の服を着ているの?」
「ジャンプスーツを着て神社の中を歩いたら怪しい人でしょう? ジャンプスーツに着替える前の私服に着替えてきました」
「なるほど。詩織たちが乗ってきたエアクラフトは、鹿島神宮の森の中に停めてるの?」
「それがさぁ、エアクラフトはしばらく使用中止みたいでね」
詩織が今朝、寮を出発してから、ここに至るまでの状況を説明した。
「へぇー、シークラフトですか? それは操縦をしてみたいな。でも私たちが船舶免許を取ったばかりなのにタイミングが良すぎない? 『組織』が何か企んでいるのかな?」
「『組織』だって、タンカーをわざわざ座礁させたりはしないでしょう? 偶然じゃない? それよりも亜香里が『思いついたこと』って、何よ?」
「ハイハイ、私の仮説をこれから発表いたします。今回のタンカーからのオイル流出事故、一度オイルが流れ出てしまったら元には戻らないじゃない?(優衣『それはそうです。タンカーのキャプテンも困っていました』)でしょう? 『覆水盆に返らず』です。それでオイルフェンスを張っても、これからビーチに漂着するオイルをいくら頑張って回収しても、自然環境は元に戻らないでしょう? だからオイルが流出する前の状態にすれば良いと思ったわけです」
「亜香里さん、それってもしかしたら『タンカーが座礁する前に戻す』って事ですか?」
「優衣さん、ご名答です。ミッションになると冴えてるねぇ(優衣「ミッションの時だけではありまんよ!」)私たちは今まで『世界の隙間』に振り回されてきましたが、今度は『世界の隙間』を利用して、このオイル流出事故を未然に防げるのではないかと思っています」
「それで『世界の隙間』の入口だったら神社だし、この辺では歴史のある鹿島神宮に私たちを呼んだわけ?」
「詩織さんも勘が鋭いですねぇ、仰せのとおりです。ここからタンカー事故が起こる前の『世界の隙間』に飛べば、座礁前のタンカーの航路を修正出来て事故が防げるのではないかと思いました」
「そんなに都合良くいく? 『世界の隙間』に行っても、そこが百年前だったら意味がないよ」
「そこは賭けです。鹿島神宮は勝負の神様が祭られているじゃないですか? 他に打つ手なしだったら、神頼みでもやってみる価値はあると思います」
「亜香里の考えていることは良くわかりました。確かにホテルで待ちぼうけをしていても埒が明かないから、その案に乗ってみますか? でも鹿島神宮の『世界の隙間』の入口って何処にあるの?」
「ご心配なく、ここに来る間に出張中の香取先輩に連絡を取って教えてもらいました」
「香取先輩は(自分の上司だから)今日、出張中なのは知っているけど、良く教えてくれたね。それと香取先輩は何で鹿島神宮の『世界の隙間』の入口を知っていたの?」
「『組織』の緊急通話を使って香取先輩に連絡を取りました『タンカー事故で『世界の隙間』に入らなければならないけど『組織』と連絡が取れません』と言って伺いました。『嘘も方便』です。香取先輩は驚きましたが、鹿島神宮の『世界の隙間』は一度ミッションで使ったことがあると言って直ぐに教えてくれました。鹿島神宮の『世界の隙間』の入口は要石(かなめいし)が祀られているところの背後(うしろ)だそうです」
「亜香里さんがそこまで調べてくれたのでしたら、行くしかありませんね。一度シークラフトに戻って装備を整えてから出発しませんか?(詩織「もちろんです『世界の隙間』に入るわけですから」)亜香里さんはここで、ずっと待っているのですか?」
「なんで? 言い出しっぺの私がここでじっと待つわけ? プランの提案者がそのジョブを実行するのは、仕事でも同じでしょう?」
「亜香里がここにきた時から『世界の隙間』に行く気が満々なのは見えていましたよ。理由の後付けは良いからね」
「見透かされていましたか(詩織「当然です」)『三人よれば文殊の知恵』と言うじゃないですか。やっぱり3人揃っていた方が、何かと心強いと思いませんか?」
「3人目は骨折していて、松葉杖だけどね」
「そうですよ、まだ走ることも出来ませんし」
「2人とも、か弱い怪我人をいじめないでくださいよぉ。これでも頑張っているんですから」
「冗談よ。『世界の隙間』に行ったら、亜香里の稲妻が役に立つかも知れないからね。それじゃあ、先に要石のところに行って待っていてくれる? 私と優衣は着替えて装備を持って行くから」
「了解です、境内の案内板に要石の場所が掲示されていますから、それで場所を確認してから来て下さい」
詩織と優衣は、鹿島神宮の森の中に光学迷彩を施したままのシークラフトまで歩いて戻り、船内に入る。
『組織』謹製ジャンプスーツに着替えてから、ストレージにある備品を確認する。
「エアクラフトの機内と同じくらい『組織』のツールが揃っています」
「うん、タンカー事故の対応には必要のないものまで入っている。ブラスターピストルやライトセーバーでタンカーを襲うの? 亜香里だったらギャレーの食料をたくさん持って行きそうだけど、今回は身軽に動きたいから食料は最小限にして… マジックカーペットは持って行こう」
詩織と優衣は必要と思うものをリュックに詰め、詩織はマジックカーペットの入った袋を肩から提げて、要石のある場所へ向かった。
「優衣、ストップ!」
「詩織さん、どうしたんですか?」
「この真っ黒なジャンプスーツ姿で鹿島神宮の中を歩いていると、警備の人に怪しまれるよ」
「そうでした、ではパーソナルシールドを光学迷彩にして要石まで歩きましょう」
透明人間になった2人が、要石の祀られているところまで行くと、亜香里が要石の前にある鳥居にもたれ掛かって座り、居眠りをしていた。
「ホントに亜香里は眠り姫だね。彼女には『じっと待つ』という動作は出来ないの?」
「亜香里さんですから…… 起こしますね(タメをつくって)、ワッ!」
ビックリして目を覚まし、あたりを見回す亜香里。
「ビックリしたぁ、脅かさないでよ。分かっ! 今のは、優衣でしょう? あとで肩を揉んでやるから」
パーソナルシールドの光学迷彩を解除しながら優衣が謝る。
「スミマセン、スミマセン、肩を揉むのは勘弁してください。でも誰もいないところで、うたた寝をするのは危険ですよ。亜香里さんも、うら若き乙女なんですから」
「おぉ、優衣さんから久々の淑女発言ね。『乙女』ですかぁ? 乙女では、お腹いっぱいにならないし、面白いことは無さそうだし、まあいいかな。では久しぶりに日本の『世界の隙間』に入ります」
詩織も光学迷彩を解除して姿を現し、気になる事を亜香里に聞いてみた。
「これからどの時代の『世界の隙間』に入るか分からないから、光学迷彩モードで入ろうと思うけど、亜香里はどうするの? ミッションを依頼されていないから、スマートウォッチの『組織』機能は使えないでしょう?」
「そうなの? みんなと一緒に行動するから使えるんじゃないの? やってみるね」
亜香里がスマートウォッチの表示板に触れてみても『組織』のメニューは出て来なかった。
「ダメだぁ、まあいいや、行った先がヤバそうだったら、2人に助けてもらうから」
「ホントに危なそうだったら、マジックカーペットを広げれば良いでしょう。カーペットのシールドの中に居れば安全だから」
「詩織さんは準備が良いねぇ、助かります。それじゃあ、香取先輩に教えてもらったとおり、要石の裏側に回りましょう」
亜香里を先頭にして詩織、優衣の3人は鹿島神宮の要石の裏側から『世界の隙間』に入って行った。
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