114 『世界の隙間』の旅行4
光学迷彩モードのままの三人、入口を抜けて『世界の隙間』に入ってきた。
「あれーっ? 境内に人が全然いませんね。江戸時代の太宰府天満宮は、今ほど人気が無かったのかなぁ?」
「亜香里さん、ここは江戸時代の太宰府天満宮なのですか? なんだかチョット違う感じがしますけど」
「私もそう思う、と言うか全然違う神社じゃないの? 江戸時代だから、さっきまでと空気の匂いが違うにしても、なんだか標高まで違う感じがする。まわりに木もたくさん生えているし、杉の大木もあるよ」
「詩織にそう言われると、そうかもしれない。とりあえずインターカムで先輩たちを呼び出してみますか?『ハロハロ、小林です。先輩方、応答願います』」
3人はひと気の無い境内を見渡しながら、インターカムの応答を待つが先輩能力者からの反応はない。詩織、優衣も順番にコールしてみるが、相変わらず応答はない。
「亜香里さん、詩織さん、ここは本殿の直ぐそばなので、姿を現して誰かに見つかったら面倒です。参道の入口まで行きませんか? 入口まで行けば、ここが何処だか分かると思うのですが」優衣はこの神社を知っている風の様子。
「そうしよう。巫女装束を着ていても神社の人に何か聞かれたら、直ぐにバレちゃうから、神社の入口まで行く方が無難ね」詩織は何かを感じて用心している。
「では参道の入口まで移動しますか。そこからマジックカーペットで『ビュン』と飛べば、先輩たちに会えるんじゃないのかな?」亜香里たちは参道を歩き始める。
「これだけ参道が広くて人も居ないと、光学迷彩モードで歩いていても楽ですね」優衣は早足に、2人に遅れないように歩いて行く。
「ここから左に曲がって表参道を下る感じですか? アレッ⁉︎ ここって!」優衣は表参道に下る手前の遠くまで見渡せる場所から、遠くの景色を見て(もしかしたら?)と思った。
「優衣、どうしたの? 何か分かったの?」
「もしかしたら、この神社の参道は小さい頃に父親に背負われて来たことがあるのかも知れません」
「どこなの? 太宰府から近い神社?」
「小さい頃のことですから記憶があやふやで… この参道を下ったら分かると思います。とりあえず下まで降りてみましょう」優衣は歩みを早め、亜香里と詩織は巫女装束を気にせずに、駆け下りて行った。
参道を降りきったところにある、標識のような石に彫っている文字を見て3人とも、思わず声をあげる。
「「「 霧島神宮!!! 」」」
「さっき参道を降りる途中で見た景色は、子供の頃、家族で来たときに見た景色にそっくりだったんです。でも何で鹿児島に来たのでしょう?」優衣は思案顔で独り言を言う。
「来ちゃったから仕方ないけど、これからどうするかよね。場所は分かったけど、ここは今、いつ? 何時代なんだろう?」
「周りを見ても道路標識や舗装した道路、そして神社には必ずあるはずの駐車場が無いから、私たちが今まで居た時代よりも前なのは確かよね。未来でも無さそうだし」詩織は周りを見回して頷きながらつぶやく。
「えっ! 私がリクエストした江戸末期の南蛮料理が食べられないの?」
「それはまだ分からないよ。太宰府天満宮にある『世界の隙間』の入口から、単純に過去の同じ場所に行くはずだったのが、違う場所のいつだか分らない時代に飛ばされたのなんて初めてだもの。優衣も私も変な時代の『世界の隙間』に飛ばされた時も場所は同じだったし、優衣の自宅の『蔵』から飛ばされて宇宙人と戦った時も、場所は同じ渋谷区だったでしょう?」
優衣は詩織の話を聞きながら、ここを脱出できる方法がないかを考えていた。
「私もお二人と同じで、これからどうして良いか分かりませんが、今までに変な『世界の隙間』に飛ばされた時のことを思い出してから行動しませんか? ここで間違えて危ない方向に進んでしまったら、後戻りが出来なくなりそうな気がするんです」
「優衣の言う通りね。上海の時の優衣みたいに、ここに他の能力者が助けに来てくれる見込みは無さそうだし」
詩織はオアフ島での『世界の隙間』のことを思い出していた。
「じゃあ、あそこに見える高台に登ってお菓子でも食べながら、これからのことを決めようよ。ここでお互いに透明人間のままで立ち話をしても、良いアイデアは出てきません。詩織、マジックカーペットを広げてくれる?」
「了解、マジックカーペットを使う練習にもなるから、ちょうど良いね」
詩織が肩にかけてきた、畳んであるマジックカーペットを広げて、光学迷彩モードのままの3人はカーペットの上に乗り、そこに座る。
「なるほど、マジックカーペットを広げたらスマートフォンの画面がタッチパネルのリモコンになるのね。まず設定画面でシールドと光学迷彩を選択して、これで良しと。2人ともパーソナルシールドの光学迷彩を解除してOKです」
3人はマジックカーペットの上で『世界の隙間』に来てから初めて、お互いの巫女装束を見ることが出来た。
「亜香里さん、巫女さんの上着がはだけています。それだと『歩き巫女』と思われてしまいます」
「さっき参道を駆け下りたから着衣がズレたのね。ヨイショッ! と、これで良しと。『歩き巫女』って何?」
「昔は特定の神社に所属せず、全国各地を遍歴する巫女がいたそうです。中には旅芸人や遊女もいたとか」
「遊女かぁ、チョット縁遠い世界の話ね。ではマジックカーペットであそこの高台までビュンと行こうよ。アレ? 私のスマートフォンのディスプレイもコントローラーになってる。乗った人は誰でも操縦が出来るのかな? やってみて良い? 左の仮想ジョイスティックが上昇下降で、右が前後左右で、あとはスタートと着地ボタンですか? 結構簡単そう、じゃあ行きます」
亜香里はスタートボタンを押し、仮想ジョイスティックで、マジックカーペットを上昇させた。
初めての操作で加減が分からなかったためか、一瞬でマジックカーペットは数百メートルの高さまで上がり、亜香里たちは急激な上昇加速でカーペットにへばり付いたまま声も出ない。
安全装置が働いたのか、カーペットの上昇は十秒ほどで停止した。
「あーっ、ビックリしたぁ。ずっと上昇したまま星になるのかと思ったよ」
「亜香里、どこを操作したの? アッ、分かった! 仮想ジョイスティックの輪っかの上を触ったでしょう? 多分これ急上昇よ」
「そんなのはちゃんと『危険』って書いてくれないと分かりません。ここは高過ぎるから、さっきの高台にとりあえず降りましょう」
それからの操縦はコントローラーとマジックカーペットのアシストもあり、難なく高台に舞い降りた。
優衣は急上昇直後から高台着陸までカーペットに伏せたまま『高いところは苦手ではありませんが、ここまで高いと…』と言い、黙り込んでいる。
見晴らしの良い高台に着いてから、携帯ポットのお茶を飲み3人は落ち着きを取り戻し、優衣も立ち直り話を始めた。
「詩織さんの時は、ドールプランテーションの迷路を出たところで、違う『世界の隙間』に入って、戻ろうとしたけど出てきた入口が見つからずに、最初に入ったダイヤモンドヘッドの入口まで戻ったのですよね?(詩織「そうだよ、ダイヤモンドヘッドまで戻るのにいろいろあったけどね」」
「私の時は外灘のビルから出てきたところで違う『世界の隙間』に入って、戻ろうとしたら警備ロボットに拒まれて、最初に入った豫園に行ってから元に戻れたのです。と言うことは今回、私たちが入った『世界の隙間』の入口の太宰府天満宮へ行けば、とりあえず元の世界に戻れると思うのです」
「確かにそれが一番間違いないと思うけど、まず出てきた『世界の隙間』の入口を調べてみてもいいんじゃない?」
「私は、変な『世界の隙間』が初めてで、なんとも言えないけど、詩織が言った通り、可能性があるところは調べてみようよ。ダメだったら、それから太宰府天満宮を目指せば良いわけだし、ここから太宰府までの旅だったら、まず鹿児島で黒豚鍋でしょう。熊本で馬刺、福岡に入ってからは、かしわの水炊といろいろ楽しめる」亜香里がまず食事を優先させるのは、自分の知らない『世界の隙間』に入ってからも同じであった
「そうですね、今回は頼れる詩織さんもいるし『絶対大丈夫』の亜香里さんもいるので、ゆったりと行きましょう」
本当は不安な状況であったが、上海の時の様に一人ではないため余裕のある優衣だった。(新入社員研修で、アクション映画の様なトレーニングを毎週こなして来た私たちだから『大丈夫』ですよ)
新入社員トレーニングは『組織』が全てお膳立てしたものであったのだが…。
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