綿飴みたいな感情(BL / SS)
東雲ゆたか
綿飴みたいな感情
渋谷の人混みって、どうしてこんなに人がいるのに知り合いを見つけてしまうのだろう。おかげで、渡れなかった横断歩道の対岸で、知らない女の子と笑う君を見てしまった。
※ ※ ※ ※
ベッドから出た君は、散らばった制服から自分の制服だけ拾い上げる。僕のも取ってくれたって良いじゃないかと思いながら寝返りをうつと、君はズボンを履きながら、机の上に置かれた携帯に手を伸ばす。そして、LINEだろうか。ふふっと笑ってから、カチカチと返事を書き始める。
「そういえばさ、」
「ん?」
「こないだ、渋谷で女の子と歩いているところ見た。」
「あぁ。」
君は携帯から目を離さないまま、なんでもないかのように返事をする。だから僕もなんでもないかのように聞く。
「新しい彼女?」
「うん。先月できた。」
「どこの子?うちの制服じゃなかったよね。」
「八王子の方の学校の子。」
「ふーん。」
実際、君が女の子と付き合うことなんてもう全然慣れっこで、そもそも恋人でもない僕が咎める筋合いなんてないし、遊びの延長ではじまったセックスに、恋だとか愛だとか、そんな綿あめみたいなくだらないものは存在しない。僕は君の行動に制限をかけられる程、君にとって大きな存在ではない。
でも、僕は「彼女を作らない理由」にはならないけど「彼女ができたからってセックスしなくなる相手」でもなくて。ときどき思うんだ。ぞんざいに扱われているのは、僕なのか、それとも君の彼女たちなのか、と。
シャツのボタンをとめている君をベッドから抱きしめる。骨ばった背中は、すっかり僕の体には馴染むようになっていて、その馴染み方に少しだけぞっとして、眉間にシワを寄せた。
「なーにー?」
君は手を止めて、間の伸びた返事をする。僕に対して機嫌が良いときの返事の仕方だ。だから僕は、君の履いたばかりのズボンのベルトを外しながら、なんてないことのように言うんだ。
「今日、親帰ってくるの遅いからさ、もうちょっと遊んでいきなよ。」
振り向いた君にキスをされながらボンヤリと考える。新しい彼女と君は、もうキスをしたのかな。そもそも僕たちは、どうしてキスをするのだろう。
もう、そんなことを考えることも億劫だし、考えると忘れたはずの綿あめみたいな感情を思い出してしまいそうだから、君の後頭部に手を回しながら、ゆっくりと目を閉じた。
綿飴みたいな感情(BL / SS) 東雲ゆたか @shinonome_yutaka
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