神滅のベテルギウス

岩井喬

第1話【プロローグ①】

【プロローグ①】


『それ』がこの星に対して牙をむいたのは、一千年ほど昔のことだった。


『それ』は、まず空を割った。雷鳴轟く空からは、無数の火の雨が降り注ぎ、多くの人間の集中している居住地を跡形もなく焼き払った。

『それ』は、次に地を割った。大きな揺さぶりを受けた地からは、真っ赤な溶岩が溢れ出し、地形と気候は様変わりしてしまった。

『それ』は、さらに海を割った。際限なく膨れ上がった海からは、巨大な津波と高波が押し寄せ、生態系を引き裂いた。

『それ』は、最後に人間たちの心を割った。災厄を生き延びたものの、最早この星に生存可能な土地など、僅かにしか残されていない。絶望こそ、人間たちにとっては脅威だった。


 ある者は、畏怖の念を込めて。

 ある者は、信仰の対象として。

 ある者は、そのあまりに強大な力を見せつけられて。


 人間たちは『それ』を、『神』と呼んだ。

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