完全にLが消えている。

エリー.ファー

完全にLが消えている。

 正しい正しくないにかかわらずこのような問題とは発生するものであるため以下に記述する。

 多くの諸問題に対する回答ではなく、非常に限定的なものであるため応用することは難しい。

 本来、このような形で残される記録に共通するものとは逸脱するため、定期的にこの内容が今現在のものと合っているかを確認し、違う場合は修正ではなく削除の吟味を早急に行う事。また、本来であれば削除をする場合に必要な過程稟議書、批正稟議書に関してはそれを無効とし、本人の承認と上級監査官による承認のみで実行に移すことが可能であることをここに示す。

 このような未承認書類を研究資料として使用しているものは、今現在では白日、石膏、アルトワ、西回りの時計であり、書類の扱いは基本的にアクチュールとする。いくつかの情報のぬけが存在するが、その点は後々の情報収集によって補足されるものであると勝手ながら期待している。

 幾人かの肯定的な研究員の存在により、今現在この対象物に関する情報は極秘事項とされているが、これらのものが実際の影響下ではない場所であれば同じような価値を見出されることはない。あくまでこの対象物はそのものから発せられる確認できない何かによるものでしか存在を認知されないことも同時に証明されている。

 一部の研究員からの意見では存在しないものである、との指摘がある。肯定派であり、この対象物の研究をしている私としては強く否定するところであるが、否定派に納得させることは非常に難しいものであることは痛感している。

 存在しないものへの干渉を抑制するという研究自体がそもそも的を外れている。

 これは寸分の間違いもなく正論である。

 私はこの意見に対して一切の反論を思いつくことができない。しかしながら、ある種の恐怖、そして快感からなるこの対象物に対して、もはやこれ以上の敵意を向けるのは研究員及び研究施設に甚大な被害を及ぼすことは言うに及ばず、その点でも独断で研究対象とするべきであるとの判断を下すこととなった。

 ヒラクシュとロロトルを構造の基本とする室内であればこの影響を全く受けない。

 治療に関しては悲愴から箔禅までを視聴することが勧められる。

 肯定的な意見を幾つか確認したが影響下ではないことを確認する必要がある。




 消失した女性の残り香から生まれる対象物は、誰かの死をもって償われるべきとの思想を有している。これは何人かの研究員がその残り香の犠牲となった直後に呟いた内容から推測しているものである。このことから、この残り香には意思があり、また言語、非言語的なコミュニケーション方法を有していることがうかがえる。

 消失する女性の名前には必ずLが入っており、その女性が消失するのと同時にその女性の名前からはLが削除される。この削除とは、人々の記憶からではなくあくまで文字であり、戸籍や免許証、パスポートなどの書面から削除されるという意味である。この現象の解明には至っていない。

 文面からのみ削除される点については、おそらく人々の記憶からもLを削除すると当然その違和感に気づくことのできるものはいなくなることから、消失したという事実を認知させようとするためであると考えられる。

 消失する女性に共通する点は未だ名前のLのみであるが、調査を続ける中で明確ではないものの幾つかの共通点を見つけるに至った。

 女性は皆、自分の容姿に不満を持っていた。

 目立つことに異常な執着を持っていた。

 男性に対して過度な恨みを持っていた。

 そして。

 自分が消失した際に、誰かが聞いて回ってきたら上記のように伝えて欲しいと言い残していた。

 という点である。


 ちなみに、私の研究室でも女性の上級研究員が消失し、残り香を生んだ。

 私は。

 妻を持っていながら。

 その上級研究員と不倫関係にあった。


 間もなくすべては解明される。

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