第1場 光明(3)

 カルミレッリには結架を食事に誘う自由がある。もし、彼女がそれに応じたとして、それを阻む権利は集一にはない。

 そう考えていたのだが、次に結架が発した言葉に、思わず全員が呆気にとられた。

「あ、待って頂戴、カルミレッリ。皆さん、八時で構いませんか?」

 カルミレッリ自身も、形の良い唇を開いたまま、硬直してしまっている。まさか、全員で行こうと彼女が解釈したとは思いもしなかった。結架と親しげに会話していた集一に対抗意識を燃やして皆の前で誘ったことが、仇になったらしい。

 マルガリータの澄ました声がすかさず繰り出された。

「わたしは八時で大丈夫よ!」

「えっ、ちょっと」

 慌てたカルミレッリが蹌踉よろめく。

 アンソニーを含む、ミケルツォ、アッカルド、メイナールのヴィオラ勢が、カルミレッリへの同情を禁じえない、という目をして顔を見合わせた。

 フェゼリーゴ、ロレンツェッティ、マインツのヴァイオリン勢は、静かに成り行きを見守る。

 そのあいだにマルガリータは話をまとめてしまった。

「決まりね! じゃあ、参加者は八時にロビーに集合しましょう。そうそう。シューイチも見送り組なんだから、欠席なんて冷たいことは言わないで頂戴ね」

 抗いようもなく、集一は頷く。

「──はい」

 レーシェンとストックマイヤーが黙ったまま立ち上がり、それぞれにチェロを抱えている腕とは反対の手で、両側からカルミレッリの肩を叩いた。

 全員が、というかマルガリータがいる場面で結架を誘ったのが、カルミレッリの敗因だ。

 アンソニーがマルガリータの背後から呟く。

C’est merveilleuxお見事

 彼女は微笑んだ。運命の女ファム・ファタルのような、意味深長で、策略家めいた表情だった。

 フェゼリーゴですら、同情的な目つきをしながらも、つい、口もとに笑みを浮かばせている。

「えええっ……」

 悲しげな声を小さく震わせたカルミレッリだったが、ひとり結架が事情を理解できずに首を傾げた。

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