万能補佐士

モルン

1章 土の国 ソル

第1話 おじ様に呼ばれる

 いつも人の右腕…までいかないにしても、補佐や縁の下の力持ちに徹していた。

 というのも、何をやるにも中の下もしくはそれ以下しか能力がないのに、上に立つことすらおこがましいから…


 そう、俺は考えてる。


 だから、MMOとか集団で戦うゲームじゃ、いわゆる僧侶とか地図士とかいないと困るが、率先してなりたい?と言われる立場を好んだ。


 裏を返せば責任を負いたくない、いざとなれば〜の保険、あくまで補助をしただけだと逃げるためのものかもしれないけど。


 そんな臆病で卑怯者な俺こと、首藤翔しゅどうかける(高校2年生・男)は現在見知らぬ土地の自然生い茂る草花の上で寝転んでいた。


 いわゆる異世界というところだろう。

 見知らぬ虫、動物に似た何かを目で追ってると自然とそのような感想になる。


 このまま何もせずゴロンと寝転んでいるのもいいが、何しろ水も食料も手元にない。

 身に着けてるのはここに来る前の長袖シャツ(白)とチノパン(黒)のみなんだから。


 スマホと財布なんか無いよ。


 いやだって、期末テストから現実逃避したくて近くの川を眺めに行っただけなんだもん。


 記憶にうっすらとあるのは土手で水切りしようと石を拾って、助走つけて投げようとしたら川に頭から落ちて…起きたらここみたいな。


 なんとまぁあっけなく人生終了と思いきや、目覚めたら草原の上で仰向けしてるし、空とこんにちわだからね。


 現実逃避したかったけど、まさか小説とかゲームの世界にいけるとは思わなかったよ。


 まぁ…一時的な夢だと思うし、これはこれで楽しんでおこうか。


 よいしょと腰をあげて周りを見渡すと、視界の隅にお爺さん?おじさんらしき人物がこちらを見ていることに気付く。


 …なんだろうか。


 俺は首を傾げると同時に目の前にそのおじさんらしき人が現れていた。


「うぉっわっ!!」


「~~?」


 はい???


「あの…何と言っているか分からないのですが…」


 俺が日本語で話しかけても反応しないところというか、怪訝な目をしているのはあれか。


 外国語…?


 いや、待て。英語なんかそもそも出来ないし、高校の英語授業はリスニング寄りならまだしも書き取りと発音は苦手だ。


 そこで俺がぐだくだと悩んでいると、目の前のおじさんは急にニヤッと笑みを浮かべた。


「あー、すまん。日本語じゃないとな。よぉ、少年。『無事に外から来たようで何より』」


「えっ?」


 一瞬アイム、カケル・シュドウと拙い英語を話すところで先制攻撃であった。


「ずいぶんとまぁ…貧弱というか、こちらの世界に適応しているものの、光っておらんなぁ」


「んー…あれですか?俺そのものは現実世界=こちらの世界のステータスというか、そんな感じですか??」


「あぁ、そんなもんだ。と言っても少年、君は運が良い」


 おじさんは悪巧みをしようというような表情で続ける。


 ってか、ステータスとかいう曖昧な例えが通じたのか。意外。


「何せ、君を呼んだのはこのワシだからな」


「???」


 意味が分からなかった。

 死にかけた?死んだ?俺を現実世界からこのよく分からない世界に呼んだ??


 何故…いや、怖い。


 急に寒気と現実味を感じてお腹の調子が悪いような。


「はっはっはっ!そうじゃのう、ワシが『君の意識を無理矢理現実逃避させていたのを解いた』からな~。無防備な状態ならばここが見ず知らずの土地、人、動物…etc…何もかも放り投げられて自身の常識や価値観がどこまで通じるのか分からない。そこを認識したならば、恐怖を感じて当たり前。むしろ、感じてなかったら、ちとワシも人選ミスをするところじゃった」


「あの、急に饒舌になるのは良いんですけど、そもそも貴方の名前は?」


「うん?ワシか。ワシは役職者を育てる…その名も『グレイル』じゃ。ファミリーネームは捨てた。家族に囚われていたら弟子に愛情を注げんからのう」


「ぐれいる…グレイルさん、は…えーっと」


「よいよい。見ず知らずのジジィを警戒して後ずさりするのも仕方ないことだし、害を与えそうには見えないが、急に親切にされるのもおかしい。だけど、この先どうしようと考えるのも仕方ない」


「はっ…???」


 この瞬間、俺は自分で考えていたことを全て言い当てられ、むしろ本音を聞かれてしまったことに尚更警戒度を高めてしまう。


「うむ、そうじゃのう…外から来たカケルならば驚くのも無理は無いが、この『覗き見』はワシの専売特許ゆえ。ある程度オートで発動してしまうのじゃよ~」


「つまり、心が読めると…?」


「そのようなものと捉えてくれて構わない」


 満足げにグレイルが告げるとある方角を指差す。


「ここから先に行くと草原の町である『フィール』がある。そこで今後について話し合おうじゃないか。無理してついてこなくてもええが、正直オススメはせんなぁ…いかんせん、この辺りには魔物というおぞましき怪物が出る…かもしれんからな」


「…行きます」


「それで良い。素直な男は伸びるぞい」


 俺はグレイルの後ろに天敵に狙われているハムスターの如くビクビクついていった。


 これで、本当に大丈夫なのか…?

 グレイルからの保護?のようなものが解けてから、ひたすら不安を感じつつも、しっかりと見失わないように歩んだ。

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