第29話 逆十字の騎士団編 閃光のモルドレット

 1999年――


 俺は天軍の依頼である、伊達成美暗殺のために、モルドレットと共に日本に戻っていた。

 前もっての天軍の調査で、伊達成美の身辺は判っている。

 実業家、伊達成克を父に持ち、彼と松平冬美との間に生まれる第一子。それが『憎悪の原罪宝冠』の持ち主となる、伊達成美だ。

 彼女は東京都内の病院で産まれる。

 相手は赤ん坊だが、世界の全てとは引き換えにできない。

 憎悪の原罪宝冠は、全てを『なかったこと』にできるのだから。

 作戦は二段構えだ。俺が狙撃で暗殺を試み、駄目だったらモルドレットと共に殴り込む。

 相手は魔術師ですらないのだ。難しい作戦は必要ない。

「ルシファーよりモルドレット。狙撃ポイントに着いた」

「了解。こちらは駐車場で待機中だが、狙撃は無理だ。強力な結界が張られている」

「わかった。そちらに向かう」

 できれば伊達成美本人と、その憎悪の原罪宝冠に接触はしたくなかったのだが、そうも言っていられない状況になった。

 俺はスナイパーライフルをかたずけて、狙撃ポイントを離れて彼女が入院している病院に向かう。

 車を走らせること五分、駐車場のモルドレットの赤いオープンカーの隣に車を止め、モルドレットと俺は合流した。

 霊の目でその病院を見る。なるほどかなり強力な結界が覆っている。

「直接、叩くしかないわけだが……この結界は不気味だ」

「ああ、術者は目標の近くにいるはずだ」

「行くしかあるまい?」

 俺はそう言って、車のトランクから近接戦闘用の装備、魔剣ブラッディ―レインを取り出した。

 モルドレットも車から降りて、俺が先になって進む。

「病室は?」

「東3-2」

 俺たちは病院に入ると走ってそこを目指す。

 この結界を張った魔導士にはもうそれが伝わってるはずだ。

 トラップの可能性を考え、エレベーターは使わない。

 東病棟に入り、階段を駆け上る。

 周囲の目が気になるが、そんなものは魔術でなんとでもなる。

 三階に上がると、強力な魔導士の気配を感じた。

 信じがたいことに、それは俺もよく知る天使だった。

「ウリエル!?」

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エターナルアイドル Lunatic 木村さねちか @Verdy323

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