第10話 ひだりかいな、伝承

ヤハゥエ討たれるの一報がザサス包囲中の連合軍のガブリエルに伝わると、連合軍はザサスを激しく攻め立てた。


 フェイゲンバウムはルシファーの身柄を盾に、包囲を解くならばルシファーを返還すると条件を出したが、ガブリエルはルシファーとルナの身柄、そしてフェイゲンバウムの首を要求した。


 フェイゲンバウムは策をベリンガーと協議し、ザサス撤退戦の準備と、ベルゼブブに対する援軍要請を評定で決定した。

 その時である。ベルフェゴール領と国境を接するマモン領から、マモン出陣す、も一報が両軍にもたらされた。


 ガブリエルは一時ザサス陥落を断念し、イエルシャルムに近いベルファス城まで引き、クリスティナ王国に援軍要請を行った。

 サタンの勅命を受けたマモンは、ザサスに向かうとフェイゲンバウムとマモンが直接面会した。


「だれの許可を得てシネルの玉座に座る? フェイゲンバウム。無論、お前が亡きルシフェルの落胤であることは知っている。お前は逮捕する。そして、捕虜にしたルシファー・ダインは亡きルシフェル陛下の仇。よってサタン王王都ディアボロスにおいて引き回しの上処刑する。ハハルビコフの内情が安定するまで、連合軍が仕掛けない限りは停戦する。既にクリスティナ王国に使者が向かっている。お前の件は現在協議中だが処刑も覚悟するのだな。ベリンガーを城代として残す。フェイゲンバウム、貴様もディアボロスに来るのだ。マクベル、捕らえよ」


「……はい……」


「わたしはヤハゥエに嵌められたのです」


「申し開きはサタン王の前でせよ」


「くッ」


 フェイゲンバウムの暴虐も既に報告を受けていたマモンはフェイゲンバウムを捕らえ、ディアボロスに身柄を送った。

 ハハルビコフ帝国とクリスティナ王国は一時停戦し、一時の平和が戻った。


 フェイゲンバウムはベルゼブブの捕虜として虜囚の身になり、ルシファーはサタンと対面した。


「弟弟子ルシファーよ、お前の望みは判っている。だが、このサタンにもハハルビコフ帝国総裁としての立場がある」


 サタンの尋問にルシファーは毅然として答えた。


「俺の命は要らぬ。ただ、ルナ・ヤルダバオートの開放を。サタン王」


 このルシファーの返答にサタンは笑って答えた。


「それでこそ、神羅舞心流。それでこそ……だ。マモン! こいつを即座に処刑せよ!」


 後ろ手に縛られた状態のルシファーの前にマモンが剣を抜きながら立ち、こう言った。


「お前の命運は決まっているのだ。済まんな、ルシファー。ここで死ぬは無念だろう」


 そして、剣を突き出して心臓に狙いを定める。


「最後に、言い残すことは?」


「ただ、ルナの安全と開放を」


「やれ! マモン」


「はっ!」


 マモンは一息でルシファーを貫く。


 その左足を。


「処刑しました。サタン王」


「よい、下がれマモン」


「はい」


 マモンはそう言うとルシファーの右足から剣を抜いて引き下がった。

 そしてマモンと変わるようにサタンがルシファーの前に立つ。


「俺は、ヤハゥエを裏切ったとは言えあくまでも神羅舞心流の戦士。一番弟子のミカエル・ミレニアが処刑されないのも我が差配よ。そして、お前のルシフェル討伐の褒美だ。受け取れ」


 サタンは抱えるように持っていた布に巻かれた死体の左腕をルシファーに投げてから、ルシファーを縛る縄を剣で切った。

 そして放り投げた死体の左腕を、ルシファーの左肩側面の左腕を切り落とされた傷口に当てる。

 すると死体の左腕から白い蛇が生えるようにして現れ、ルシファーの左肩に喰いつくように肩から接合し、ルシファーは新たな左腕を得た。


「命を助けた上になぜここまでする?」


「知りたいか? 全ては茶番。神羅舞心流は二つに別れ、ミレニアム神聖帝国の獅子身中の虫を、いぶり出し、これを全て殺すのだ。ルシファー、お前は、一年以内にフェイゲンバウムを一騎打ちにて殺せ! 奴はハンデとしてベルフェゴール親衛隊666名を付けて、ザサス城にいる。俺の元で神羅舞心流を学びなおせ。善と悪、神と魔、光と闇。怨あらば、故あらば、神をも殺すが神羅舞心流。ヤハゥエのことは残念だった。計画ではこの俺はヤハゥエに討たれる予定だったのだ。我が子サマエルよ」


 サタンはそう言うとマントを翻して玉座に座りなおした。


 ルシファーは新しい左腕を動かし様子を見る。

 手の甲に666とい数字のあざが見える。

 それをなぞるように見るルシファーを見て、サタンは言った。


「それぞ、わがディアボロス流真羅舞心流奥義、『神羅万願印』よ。だが、使い方は教えぬ。それは呪いの力故、使えば自身が破滅すると心得よ。『ひだりかいな』として封印せよ。ヤルダバオート流最終伝承者を今後は名乗るがよい」


「ひだりかいな……最終……伝承者」


 ルシファーは自分に言い聞かせるように呟いた。

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