幼馴染パーティを追放されたハーフリングの盗賊、実はパーティの中で最強の実力者だった~幼馴染達は転落し、少年は鍛え抜いたチート雑用スキルで成り上がる~

おさない

第一章 ハーフリングとドワーフ

1話 パーティ追放

「う……うぅ……」


 ぼろぼろの体を引きずって、なんとか拠点にしている町ロアルへ戻ってきた僕は広場の石段へ腰かける。


「はぁ……」


 目の前の噴水を眺めていたら、なんだかやるせない気持ちがこみあげてきて思わずため息が漏れてしまった。


 結論から言うと、僕はパーティを追放された。


「なんか……いろいろ無駄だったな……」


 迷宮探索をするときは、人一倍頑張ってきたつもりだった。


 荷物持ちに地図作成、罠解除、鍵開け、斥候に武器や防具への魔力付与エンチャント、薬の調合等々、生きて帰るために大切なことをみんなのために率先して引き受けてきたつもりだったんだけど、みんなにはそれが伝わっていなかったらしい。


 目からぽたぽたと零れ落ちた涙が石段を濡らす。


「なんで……なんでなんだよぉ……」


 どうして誰も僕のことを理解しようとしてくれなかったのだろうか。みんなとは、孤児院で寝食を共にしてきた仲だというのに、どうして僕だけ……。


「もう……みんな知らない……死んじゃえ……!」


 僕は涙も乾かぬうちに石段から立ち上がる。


 元居たパーティのことなんか忘れて、欲望の赴くままに生きよう。


 そう決心し、懐からへそくりの10万ドロンを取り出して呟いた。念のため説明しておくと、ドロンはこの国の通貨の単位である。


「ぐすっ……これで……性奴隷でも買お……」



 僕の元居たパーティは、戦士のクレイグ、魔術師のエリィ、治癒術師のミラ、そして盗賊兼雑用の僕ことロロの四人で構成されていた。


 三人とは同じ孤児院出身の幼なじみで、将来立派な冒険者になると誓い合った仲である。


 孤児院にいた頃、クレイグとはよく模造刀を使って剣術の訓練をしたし、エリィとは一緒に魔法の勉強をしたし、ミラとは……その……いい感じだったし……。


 少なくとも、孤児院を出る15歳くらいまでは全てが順調だったように思う。


 歯車が狂い始めたのはその後、冒険者としてそれなりに名を上げた頃、僕だけハーフリングだったという衝撃の事実が判明してからだ。


 確かに僕だけやたらと身長が低かったし、声変わりもしないし、少しへんだとは思っていたが、まさかみんなと種族が違うとは思いもよらなかった。


 てっきり夜ふかしばかりしているせいかと……。院長にもそれでよく怒られたし……。


 種族が違うだけなら問題がないようにも思えるが、そんなことはない。


 ヒューマンの冒険者の共通認識として、ハーフリングは力が弱くおまけに打たれ弱いので冒険者には向かないというものがある。僕としてはとんでもない偏見だと思うけど、考えてみればヒューマンとハーフリングで組んだパーティに遭遇したことはほとんどなかった気がする。


 最初はみんな「お前がハーフリングだろうとなんだろうと、俺たちはずっと一緒だぜ!」とか「通りでチビだと思った。ま、あたしは気にしないわよ」とか「そんなの関係ないよ。一緒に頑張ろ?」とか耳触りのいい言葉をかけてくれたが、それから次第に、僕に対する態度が変わっていった。



「おいてめぇ!」


 冒険者としての僕の記憶の大半はクレイグに怒鳴られている場面だ。


「……なにかな?」

「そっちの道はどう考えても遠回りだろッ! 真面目にやれッ!」

「いや、でもこうしないと罠が――」

「つべこべ言うなッ! 罠の解除ならお前がやればいいだろッ!」

「そんなこと言われても……必ず罠の解除に成功するとは限らな――」


 突然、頬に痛みが走る。どうやら、僕はクレイグに殴り飛ばされたらしい。僕は固い石畳に叩きつけられる。


「てめぇの! せいで! 無駄に時間が! かかってんだよッ!」


 馬乗りになって僕のことを殴るクレイグ。体格差があるため、こうなってしまっては僕は黙って殴られていることしかできない。


 口の中が切れて血の味がした。


「クレイグ!」


 その時、クレイグを止めるミラの声がした。


「それ以上は……可哀想だよ……いくら言うことを聞かないからって……」


 僕は一体何なのだろうか。ミラの哀れむような言葉が、僕にとって一番堪える。


「……こっちの道で行く。お前が先頭を歩け」

「…………わかったよ」


 僕はゆっくりと立ち上がって先頭を歩き始めた。

「ほんっと、使えないわね」


 何も言わずに一部始終を見ていたエリィが吐き捨てるようにそう言った。迷宮を探索するときはいつもこうだ。


 殴られたせいで体中が痛い。


 ――それでも、僕はみんながいつか昔のように戻ってくれると心のどこかで信じていた。だからこそ、このパーティーでやってきたのだ。


 まあ結局、そんな淡い期待は跡形もなく崩れ去るんだけどね。

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