EP00-5



 それから彼女は色々なことを話しかけてくるようになった。また、ただ話しかけるだけではなくこの世界の言葉と文字を教えてくれた。



 最初、異世界の文字だから覚えるのに苦労するかと思っていたのだが、いざ見せられてひどく驚いた。

 彼女が見せた文字が見覚えがある。まるで『俺』がいた前世の世界で使われていたローマ字の少しだけ改造した亜種系の文字だったのである。



 声が上手く伝わらないガラス越し、一つ一つ丁寧に、電子端末のパネルを使って読み方から発音の仕方まで教えてくれた。機械の見た目がまんまアイフ〇ンみたいだったのにふきけかたのは内緒である。

 教えてくれる文字の読み方や使い方には所々違うものはあっても、簡単な入れ替えによる汎用の範疇で収まっているのであっさりと理解できた。



(ふむ……せっかく教えてくれてるわけだし、感謝の意思は示しておくか)



 ほんの気まぐれであり、何かを教えてくれた相手に対して感謝を伝えるという人として当たり前の行動だった。伝える手段はたった一つしかないし、教えてもらった文字の確認にもなると思い、ガラスに指で言葉を書いてみた。

 ただ一言――


 

 ――ありがとう、と。



 それを見た……書かれた文字を理解した彼女は喜び、泣き崩れた。あまりの事態に驚くが、ガラスによって隔てられている自分には何もしてやれることは無い。 

 心配そうな瞳を向けるだけの自分が……ほんの少しだけ歯がゆい。彼女はその視線に気が付き、涙を拭いながら微笑み返してくる。

 


 彼女の悲しそうな、でもどこか嬉しそうな表情はとても印象的で、今でも記憶に鮮明に焼き付いている。

 その日以来、彼女は姿を見せなくなった。


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