EP00-3
それから更に幾日かが経過した。とはいえ、時計などで確かめているわけではないのでどうかはわからない。
そして『俺』はここ数日の思考で、純粋無垢な存在であると演技をすることを決めた。
生まれたばかりの実験体が、持っているはずのない知性と様々な知識を持っていると知られるのは不都合になる可能性が高いと判断した。何も知らない、生まれたばかりの無垢な存在を装うことにしたのだ。
その結果は、反応を見る限りでは正解だったようだ。
――何も分からない、あなたはだぁれ?
『俺』の知識にある、無垢な存在がするような視線とともに首を傾ける。その演技が上手などとお世辞にも言えないとわかっているのだが、それを見た者があからさまな不信感を示したり、何かしらの追加行動を起こすことは今の所は無いようだ。なのでもうしばらくこのままのでいようと思う。見てるだけだが、それだけでも大事な情報収集になり、何かあった時に備える為にも情報と状況の収集は大事だしね。
代わる代わるに眼の前に来る、こちらを生き物として見ていないのが分かる目をした白衣の男女がこちらを観察し、タブレット端末のような物に入力しては去っていく。
(実験対象の観察日記。正確にはレポートか。ほんと……いい気分じゃないな)
昏い感情に引きずられてため息の代わりに口元から泡がいくつも出て上方へと消えていく。
変化の無い、閉じ込められた状態で観察されるだけの日々は、なまじ成人の人間の精神が宿っている為に辛い。
終わりの見えない、出口が存在しない苦痛が、自らのあちこちをゆっくりと苛むのを知覚していた。
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