ヒーローロード外伝「銀色の勇ましき魔狼」
MrR
本編
*本作はとある方が書いてくれましたヒーローロードの外伝(二次創作?)小説です。
*時系列はヒーローロードの第二十九話「強者を求めて」(ホーク・ウィンドウの初登場回)の裏側で起きていた物語りだそうです。
天照学園……通称、学園島と呼ばれる場所。
自然保護区の島と円形の人工島とで構成されており、その自然保護区の一角に誰も気付かれない小さな異変が発生していた。
夜の闇と遠くの人工島の僅かな光に照らされた木々。
そこには袈裟懸けに斬り裂かれ、傷口が凍りついて虫の息のライオン型怪人。
一方は銀色の狼型の怪人……怪人とは一線を画した何か。
その目には落胆が浮かんでいた。
「その程度かよ……大口叩いた割にはよぉ」
「き……さま、なに……もの……だ」
死に瀕してなのか、言葉を出すのも億劫に問うライオン型の怪人。
「俺が何者かなんてどうでもいい。どうせてめぇはくたばるんだからな。とんだ期待外れだ。どうしてくれる?平凡で退屈でありきたりで渇望しても満たされず燻った俺の闘争本能をよぉ!!」
狼は吼える。己の闘争心を満たしてくれるであろう強者を。
己より強く、楽しませてくれる強者を。
銀色の毛皮は僅かな人工の光を反射して輝く。
左手一本でライオン型怪人の喉を掴み上げ、持ち上げる。
「購えよ。てめぇの命でな」
掴んでいた左手を離し、ライオン型怪人が崩れ落ちる直前に右の掌底を叩き付ける。
直撃したライオン型怪人は一瞬で全身が凍り付き、自壊して粉塵になって風に舞った。
「足りねぇな。ああ、足りねぇ。もっと俺を楽しませろよぉ」
裂けた口を歪ませながら銀色の狼は森の奥へと姿を消す。
後に残ったのは僅かに氷が付着して歪な引っかき傷が付いた複数の木のみだった。
ブラックスカルとの戦いに終止符が打たれ、裏社会の水面下の争いが激化の一途を辿ったある日。
この日もまた、カラーギャング同士の抗争が横行していた。
その争いを冷ややかに見る銀色の髪を逆立てた青年。
黒い半そでシャツを着ており、ダメージジーパンを履いている。
否応無く目立つ青年は当初はあまりの低レベルな争いに介入するつもりはなかった。
しかし、双方のカラーギャングはそうとは思わず、第三グループだと思い込み、青年にも襲い掛かってくる。
「あー、めんどくせぇ」
殴りかかってきた一人の拳をスレスレで避け、裏拳を顎に当てて脳を揺らして動けなくする。
「くたばれ!!」
鉄棒をもって殴りかかってきた相手には半円を描くように避けた上で、ソバットを叩き込む。
「勘違いだろうが、なんだろうが俺に喧嘩を売った以上、手加減する義理はねぇよなぁ?」
嬉しそうに口を歪ませる青年。餌が自ら飛び込んできたとばかりに。
「盛大におっぱじめるかぁ!!楽しい、楽しいドンパチって奴をよぉ!!」
双方のカラーギャングに不運が降り注いだ。
銀髪の青年が暴れ始めてから十数分。
立っているのは青年一人でカラーギャングたちはあっちこっちでうめき声を上げて倒れていた。
「くだらねぇ。準備運動にすらなりゃしねぇ」
退屈そうに欠伸をする青年。
「野郎……こうなったら奥の手だ」
ギャングの一人がメダルのようなものを腕時計に嵌め込む。
その少年がメカニカルな虎のような怪人に変貌した。
「へぇ~、変身した?いや、なんか違うな」
「てめぇ、どこのチーマーかしらねぇがぶっ潰してやる!!」
常人からすれば桁外れの脚力で間合いを詰めてくる虎もどき。
赤熱化した爪で三枚卸にしてやろうと迫る中、青年を考察していたが。
「まぁ、いいか。難しい事は性に合わねぇ」
あっさりと考えを放棄して、避けた。
標的が消えた爪は地面をあっさり裂き抉る。
「どうだぁ!!ビビッて震えても遅いぜ!!てめぇは切り裂いてやる!!」
開放感に酔いしれる虎もどき。
「そうかい?だったら、俺も見せてやるよ」
呆れた表情を浮かべて青年は全身に力を入れる。
顔面が狼へと変化し、上半身のシャツが銀色の体毛の圧力に耐え切れずに弾け飛ぶ。
足も人とは違い、爪先立ちのように変化する。
変化が終わった時には二足歩行の狼が現れていた。
「退屈で平凡でありきたりで渇望しても満たされず、燻った俺の闘争心。おまえなら楽しませてくれるんだよなぁ?」
口を歪ませ、呟く青年だった狼。
相手の威圧感に恐れているのを隠すかのように虎もどきが赤熱化した爪を再び奮う。
それを狼は左腕一本で受け止める。
高温を帯びた爪が毛皮で止まり、うっすらと白い煙が上がる。
煙ではなくそれは水蒸気。
「俺の毛皮は極低温でな。高温にして切れ味が鋭くても今のままでは鈍らだぜ」
本人の腕だけで周りの環境は変動していない。
まるで氷が入れたての飲み物のように。
「クソがぁ!!」
ならば、もう片腕ならどうだとばかりに赤熱化した爪を再び奮う。
その大振りな振りは素人同然。
「一方的って言うのは好きじゃないんでな」
狼の爪が低温を帯びる。姿勢を低くして、足に力を込める。
相手の爪が振り下ろされる刹那……
「ネーミングセンスが悪いからダチが付けてくれたんだけどよ。氷迅残月……良いもんだろう?聞こえていないだろうがな」
いつの間にか背後に居た狼。虎もどきには刺々しい三日月型の氷によって胴体半ばまで切り裂かれていた。
「今日は随分と客が多い日だな」
一息ついて木に背を預けていた狼は近づいてくる気配を察して軽はずみな声を出した。
目の前には虎もどきが倒れたまま晒されている。
「デザイアメダルの怪人!!」
「でも、一方は既に倒されているみたいだけど、仲間割れ?」
到着した城咲 春歌や天野 猛は現場の状態に困惑する。
「この惨状は貴方がしたんですか?」
目の前の狼に問い詰める猛。
この時、状況を把握するのに考え込んでいたのか狼の腕にはブレスレットが無かった事に彼は見落としていた。
「そうだとしたら?」
まるで挑発するように逆に問う狼。
「解除してそのメダルを渡してください。それは危険です」
「メダル?何の事だ?そんなもの、俺は持ってないぜ」
狼に言われて春歌はようやく気がついた。
目の前の相手は人間でも怪人でもない。
本物の……人ならざる者。
だが、その程度で怖がる訳も無く、猛も春歌も数々の修羅場を潜り抜けて精神を鍛えられてきた。
「それより、お前ら強いんだよなぁ?まさか、物見遊山で来た訳じゃないだろう?」
意図的に内包していた力を狼は解放し、青々と茂っていた草に霜が付く。
「猛君!!周りの温度が急激に下がってます!!」
「まさか、目の前の怪人の仕業!!」
周りの温度の低下が目の前の狼が起こした事象だと理解した瞬間。
「さあ、おっぱじめようぜ!!派手によぉ!!」
背を低くし、力を溜めた脚力を一気に爆発させる。
いつでも迎撃できるように構えていたはずにも関わらず、視角外から間合いを詰められ、横凪に奮われる低温の爪を猛は奇跡的に避けた。
(は、速い!!今の偶然避けれたけど次が来たら……)
思考している最中にほぼ密着といっていいほどの状態から狼は追撃をかける。
「オラララララララッ!!」
爪を矢鱈滅多に奮い、切り裂かれた空圧から発生した衝撃刃が雪崩をうつように猛を襲おうとしたときだった。
甲高い音を響かせ、透明なガラスのような壁が猛の前に張られて防いだ。
「やれやれ、まさかおまえとは思わなかったな。銀勇狼 メギラ」
闇夜の森の影から現れたのはブレイド。
猛を庇ったのは彼だった。
「よぉ、ブレイド。散々待たせやがって。わざと力を解放して誘った甲斐があったってもんだ」
よほど嬉しいのか、メギラは耳をぴくぴく動かす。
「ナベリウスからお前を止めるように言われてな。悪く思うな」
「そりゃ、願ったり叶ったりだ。今でしか出来ない偽りの命がけの戦い!!勝とうが負けようか関係ねぇ!!要は楽しんだもん勝ちだ!!」
淡々と述べるブレイドに対してわくわくして無邪気な子供のように目を輝かせるメギラ。
「ブレイドさん、僕たちも加勢します」
「三人で力を合わせれば、あの怪人が強くても負けません!!」
猛と春歌もやる気を見せる。しかし……
「足手纏いだ。お前達じゃ、無駄死にするだけだ。あれは怪人ではない。正真正銘の妖魔、人狼族だ」
「人狼族?」
ブレイドが猛たちの協力を拒否し、その猛はオウム返しに問う。
「こっちでは狼男って言った方が分かるか?あれよりも性質が悪い種族だ。それも相手は稀と言われる銀狼でな」
「銀狼って事は聖なる力や純銀に対する抵抗力があるって事ですか?」
狼男に関しては銀が弱点と言う伝承がある。誰もが聞いた事のある話だが、それが弱点になり得ないというのは確かに厄介だと春歌は感じる。
「おまけに俺やもう一人の親友と散々、手合わせしているおかげでタフさも磨きがかかってな」
その事に関してか、思い出してブレイドは頭を抱えそうになる。
挑んでは倒れ、時には死に掛けて、気付けば意気揚々とまた挑む。
三度の飯より強い奴の闘うのが好きと豪語するメギラが人間界に来た目的もブレイドは察していた。
あるいは諦観していたとも言うが。
「そういう訳だから、お前たちは巻き込まれない内に帰れ。後はこっちでケリを付けておいてやる」
話は終わったとばかりにメギラへと視線を向けるブレイド。
「分かりました。すみませんけど、後はお願いします」
僅かに闘った程度だが実力差がありすぎるのを理解した猛はあっさりと引いた。
「猛君!!」
「春歌ちゃん、悔しいけどブレイドさんの言う通りだよ。加勢するって言ったのは出来る事があるかもしれないと思ったからだよ。残念ながらなかったけどね」
「猛君……」
今の猛の気持ちを察して春歌は口を噤む。
「すまないな。待たしたようだ」
「構わねぇよ。随分と優しくなったこって。どうせ殺されるなら赤の他人より気心知れたダチの方がよっぽどマシだろうぜ」
ニヤニヤ笑うメギラの茶化しに無言になるブレイド。
開始は合図もなく、ブレイドのダークレインから始まった。
数多のエネルギー弾が豪雨の如く降り注ぐ。
それをメギラは両腕に纏った極低温の爪で直撃のみを弾く。
凌ぎ切ったメギラに立て続けにジェノサイドバーストが襲う。
「はっ!!」
それをジャンプして左手を振り下ろす。
繰り出すは氷迅残月。その正体は凄まじい勢いで振り抉り裂く低温の爪。
刺々しい三日月は爪で裂かれた空圧の水滴が名残として軌跡に沿って氷結した物だ。
だが、それを察知できないブレイドではない。
右腕から繰り出すはスクリューエッジ。
魔力が螺旋を描き、それを右腕に纏って突き出す。
「ぐぅっ!!」
振り下ろそうとした左手を縮めて、左腕の犠牲を前提にした防御に移る。
左腕と魔力の螺旋が接触、歯を食い縛ってメギラは痛みを堪える。
「いってぇな!!」
ブレイドが近づいてきたのを勝機と捕らえて、逃すことなく右手で凝縮した凍気、ホワイトダストを直撃させる。
相手を氷結させ、自壊させて粉塵として砕く。
「づぁっ!!」
一瞬で左腕が凍結し、ブレイドも苦痛に声を漏らす。
とっさに退いたのが功を奏したのか、粉塵とまではいかなかった。
これでお互いの左腕が使い物にならなくなった。
「おりゃぁ!!」
まだ、間合いが離れていない内に畳み掛けるつもりで氷迅残月を繰り出すメギラ。
同じ事を考えていたブレイドは……
「だろうと思った」
メギラの考えを読んでいたかのように魔闘連弾を繰り出す。
迂闊に飛び込んでいた……遠距離の攻撃手段が僅かしかないメギラにとっては押し切るには飛び込むしかなかった。
次々繰り出されていく連撃が次々とメギラに撃ち込まれていく。
(ああ、楽しいな。やっぱり、ブレイドと試合するのは。このまま寝るのは……勿体無ねぇ!!)
最後の一撃を繰り出そうとして突き出される一撃。
「だりゃあ!!」
それをメギラは目を見開いて、右腕を突き出し、かち合せる。
ほんの僅かに拮抗するが実力差が出たのか、ブレイドが押し切って……
(くっそっ、遠いな。まだまだ、届きやしねぇの)
心中でそう思いながら満ち足りた穏やかな表情を浮かべて、打ち負けた右腕が外に弾かれて、直撃。
打ち込まれて蓄積された魔力がその一撃で一斉に起爆して破裂した。
「ブレイドさんはこれからどうするので?」
「さあな。気の向くままにうろつくだけだ。ひょっとしたら面白い事もあるだろうしな」
尋ねた猛に答えるブレイド。
「そうですか。また、会えるかな?」
「気が向いたらな」
そう言ってブレイドは自然保護区の奥へと消える。
一時の出会いであったものの別れはあっさりしたものだった。
だが、猛と春歌、ブレイドはいつしか再会するだろう。
この地球の上で。
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