空白

風が弱くなった 雨が止んだんだろうか


肌に突き刺すような寒さが無くなり 


足のつま先から内臓に緩く響くような寒さに代わった


視界は 雨水が滴り落ちる前髪で遮られた


先刻から眼に鈍い痛みを感じる


その痛みが 雨水の所為か 涙の所為なのか


今はもう憶えていない


数秒前の己の姿さえも忘れた


只 前に進まなければならない衝動に駆られる


(往かなくてはならない)


頭に入り込むような音声が聞こえる


繰り返されるその言葉が脳を揺り動かす


(お前はまだ忘れている)


視線を感じた


消えたと思っていた月の灯が 再び僕を照らし始めていた



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る