パワハラのススメ

@pocket1818

プロローグ


 彼女が目を閉じた。彼女のピンク色の唇が、俺の唇とゆっくりと重なった。


「ん。」

「ああっ。」


 彼女が俺の唇を何度も甘噛みをする。その度に小さく声を上げて息を漏らした。

 

 一度彼女が顔を離し、俺の顔を見つめる。大きな瞳は見つめると吸い込まれてしまいそうだ。緩くパーマのかかった長い黒髪が垂れ、俺の視界を遮った。彼女が自らの髪をかき分ける。


 数秒間の沈黙の後、俺たちは再び唇を重ねた。今度はお互いの舌を入れ込み、舐め回し、唾液を絡めあった。


 ああ、俺は何をしているんだ。


 自分が情けない。欲望に負けてしまった自分が。

 

 総合商社に就職して3年と9カ月。こんな日が来てしまうとは思わなかった。

 俺には愛する妻がいる。そうだろう、子供も産んで、いつか一緒に暮らそうって、話したばかりじゃあないか。

 

 それが、女性の誘惑に屈している。

 このままじゃあ、周りの大人たちと何一つ変わらないではないか。自分は人を非難できる権利を持っていないじゃないか。


 それが俺なのか。俺という人間は、所詮その程度の存在なのか。


 情けなさで泣きそうになりながらも、目の前の欲望に突き進む体は止まらなかった。

 彼女の腰に手を回す。下唇を甘噛みすると、彼女は「はあっ」と小さく声を上げた。


 彼女がゆっくりと顔を上げる。


 首を小さく横に傾けると、「抱いて」と言った。

 心のブレーキが遂にぶっ壊れ、俺はコクリと頷いた。



 この日、俺たちは同僚を超えた。



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