残り22日
「ねえアゲハ、健人君との出会いって何がキッカケなの?」
「あー、アイツとの出会いか……なんだっけな」
恒例の屋上で昼飯中の雑談で、何となく花蓮が健人との出会いを聞いてきた。まあ確かに俺と健人は普段なら絶対に交わらない存在だ。クラスの嫌われ者と人気者が一緒にいるのだ、訳がわからないと思われるのも仕方がない。
「あいつって、誰にでも愛される存在だろ?」
「そうね、あの人のことを嫌いっていう人は嫉妬以外に理由が無いってくらい良い人ね」
誰にでも人当たりがよく、八方美人で、底抜けに明るい存在。だがしかし、アイツはそんな完璧な人間ではないのだ。
「だからこそ、周りに『理想の白鷺健人』を演じないと行けない日々が続いてたんだって。誰かを庇えば、誰かを傷つける。この人にはこういう性格でいけば仲良くなれる。この人はこの人が嫌いだから悪く言ってはいけない。アイツはアイツで努力してあの評価を得ているんだよ。そんなこと、誰にでも出来ることじゃないから、素直に尊敬しているけどな」
「でも、それはキツいわね。言っていしまえば、誰にでも素の自分を見せられないことと同じことじゃない」
何があっても理想たる存在に見せるため、日々自分を殺すことに努めているのは事実だ。
「でもある日、俺に出会った。どんな嫌われ者でも理想を演じていた健人は、俺に上っ面の会話を振ってきたんだ」
しかし俺には、初めから彼が日々仮面を被って無理をしているように見えていた。
「だから言ってやったんだよ。『俺には見栄を張らなくてもいいぞ。どうせ嘘だって分かるから』ってな」
「……それじゃますます仲が悪くなったんじゃないの?」
正直、俺もそう思っていた。別に嫌われてもいいから、本当のことを言ってやろうって。それで仲良くなれないなら自分とは合わない存在だったってことだと。
しかし、健人の反応は予想を超えていった。
「違うんだ。逆に健人は『なら君になら本当の僕をさらけ出してもいいんだ』って言い出して。どうせ嘘と見破られるなら、最初から仮面を外すってよ」
「そういうこと。アゲハといる時は、素の自分でいられるから気楽なのね。なんで特別に仲が良いのか理解できたわ」
「アイツにとって俺は、唯一何も考えず気楽に話せる人なんだとよ」
俺としても健人は、素でも面白くて良い奴だから仲良くできた。
今更だが、花蓮との出会いも思い出した。これも衝撃だったな。
「花蓮との出会いは衝撃だけどな。いきなり100日後に死ぬだの言い出して」
だってその言葉から、花蓮が嘘をついている挙動が見えないことも驚きだった。きっと何かの間違いか、聞き間違いだろうなと思っている。
「ええ、そうよ」
花蓮は俺の目を見てはっきりと言った。そしてまたしても、嘘を言っていないと分かった。そんなはずはない、だって、余命宣告なんて、病気か何かじゃないと――
「私はもうすぐ死ぬ運命だわ」
「運命って、なんだよそれ。そんなのあり得ないだろ」
運命で死ぬなんて物語上の空想だ。どうせ、インチキ占い師にでも変なことを吹き込まれたに違いない。いや、そうであってほしい。
「いいえ、あり得るわ。だって私は――」
あまりに話が急すぎて、そこから先の言葉は、とても信じられるものじゃなかった。
「私は、この100日間を、何度も死んで繰り返しているもの」
――その言葉から、嘘偽りを感じることは……出来なかった。
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